‟平成”生まれの若者たちを描く朝井リョウの最新作。

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    『死にがいを求めて生きているの』

    朝井リョウ 著

    ‟平成”生まれの若者たちを描く朝井リョウの最新作。

    今泉愛子ライター

    生きがいを問われて、明快に答えられる人は少ないだろう。仕事はしているけれど、自分の使命だと思えるほどではない。暮らしの中に楽しみはあるけれど、とてもささやかなものだ。

    主人公の南水智也は、重度の脳挫傷による植物状態が続いている。智也の幼なじみ、堀北雄介は病院に毎日のように見舞いに訪れ、病室では毎回、小学生時代に一緒に歌っていたという海外アニメの主題歌を流す。

    平成に生まれて、小学校から大学まで友情が続いたふたりと関わりのあった5人の人物が、それぞれの立場から智也と雄介の様子を語る。体格がよく勉強もできる雄介は、昔から自分勝手なところがあったが、智也は、なぜか雄介から離れようとしなかった。そしていま、雄介はなぜ、そんなにも献身的に看病するのか。過去から浮かび上がってくるのは、ひたすら自己承認を求める雄介の姿だ。注目されたい。自分は価値のある人間だと思われたい。

    大学生になった雄介は、社会問題に関心を示すが、本気で問題解決に取り組むわけではなかった。そこに、ただ生きがいを求めているだけである。

    なにかを成し遂げたい。自分の人生には意味があると思いたい。そのためには人より優れていなくてはいけない。子どもの頃は勉強やスポーツで簡単に優劣がついたが、大人になると物差しが曖昧になり、雄介の欲望はしだいに満たされなくなっていく。

    他者との違いに、優劣を求めるのはいけないことなのか。対立のない社会で、自分が自分であると証明することは、なぜこんなにも難しいのか。

    植物状態だった智也は、病床で聴覚を取り戻し、雄介の欺瞞に気付く。しかし、自分も雄介と同じように物差しを求めていただけだった。ずっと智也側に立って雄介のイタさを下に見ていた読者は、ここで一気に目が覚める。自分も同じなのだと。

    『死にがいを求めて生きているの』
    朝井リョウ 著
    中央公論新社
    ¥1,728(税込)