時代の寵児を切り取ってきた、伝説の写真家の眼差し。

  • 文:新谷洋子

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『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』

相原裕美

時代の寵児を切り取ってきた、伝説の写真家の眼差し。

新谷洋子音楽ライター

鋤田が撮影したマーク・ボランの写真を見てギターを始めたと語る布袋寅泰をはじめ、ジム・ジャームッシュ、山本寛斎、永瀬正敏など、鋤田と親交のあるアーティストたちも多数出演。彼のクリエイションや人柄について語る一作だ。© 2018「SUKITA」パートナーズ

5月初めに80歳の誕生日を迎えた鋤田正義。この大御所フォトグラファーをカメラの反対側に立たせたドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』は、彼の被写体となったアーティスト、コラボレーター、仕事仲間、家族の証言を交えて、故郷の福岡県直方市にある原点から、丹念にその足跡を辿った作品だ。 
なにも傘寿記念などと謳っているわけではないが、その功績を改めて知るにはタイムリーな年かもしれない。 
タイムリーと言えば、2年前のデヴィッド・ボウイの死も、40年にわたって彼を撮り続けた鋤田が改めて注目を浴びる契機となった。ここにはもちろん、そのボウイのアルバム『ヒーローズ』のジャケット写真ほかアイコニックなイメージの数々を巡る逸話が網羅されている。しかしそれに劣らず興味深いのは、鋤田が上京して広告の世界で頭角を現した時期の回想だ。1960年代後半から70年代にかけての、東京のクリエイティブシーンへの関心を大いに掻き立てる作品でもある。アルバム・ジャケットを手がけたサディスティック・ミカ・バンドやYMOからスチール撮影でコラボした寺山修司に至るまで、当時周辺にいたのは彼と同様、半世紀を経たいまでも斬新なジャパニーズ・アヴァンギャルド表現を生んで、果敢に海外に飛び出し、少なからぬ世界的インパクトを与えた人ばかり。そういう時代のフロンティア精神に憧憬の念を抱かずにはいられない。 
また本作は過去を振り返るだけでなく、精力的に現役で活動する近年の姿をも、国内外の撮影現場や展覧会の会場に追う。柔らかな佇まいに鋭い観察眼と粘り強さ、そして旺盛な好奇心を秘めた彼は、80歳で引退して帰郷するつもりだったと語る。ボウイの曲「ザ・ネクスト・デイ」を聴きながら未来に目を向けて幕を閉じる本作に、その気配は感じられない。

『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
監督:相原裕美
出演:鋤田正義、布袋寅泰、ジム・ジャームッシュ、山本寛斎ほか
2018年 日本映画 1時間55分 5月19日より新宿武蔵野館ほかにて公開。
http://sukita-movie.com