ケルトのなんたるかを知らずに、 ヨーロッパは語れない。

  • 文:今泉愛子

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『ケルトの想像力 歴史・神話・芸術』

鶴岡真弓

ケルトのなんたるかを知らずに、 ヨーロッパは語れない。

今泉愛子ライター

ケルトとはなにか。長年にわたってケルト芸術文化を研究してきた著者は「紀元前300〜200年代前半をピークにヨーロッパ大陸で繁栄し、ギリシア・ローマ文明に拮抗した古代を経て、中世初期にふたたび復活を遂げるヨーロッパの基層文明である」とする。ただし、一般人のケルトについての理解は、ギリシア・ローマ文明よりもはるかに乏しいものだろう。 

それは、ケルトが国家を創設せず、書き言葉(文字)をもたなかったこと、ローマに滅ぼされた敗者であったことが大きく関係している。そこで著者は、ケルトがどのような文明で、現代のヨーロッパにどのように引き継がれているかを多角的に解明する。 

現代においてケルトの伝統を伝えるとされる国や地域は、アイルランドやイギリスのスコットランド、ウェールズ、マン島、コーンウォール、そしてフランスのブルターニュやスペインのガリシアだが、驚くことにケルトは、決して辺境の文明ではなく、繁栄期にはフランスからドイツ、スイス、オーストリアにまでおよぶものであった。ドナウ川やアルプス山脈などの地名はケルト語からきており、フランスを代表するタバコの銘柄「ゴロワーズ」とは、ガリア人、つまりケルト人を指し、パッケージに描かれた羽の付いた鎧もガリア戦士の象徴だという。 

ケルトの中核をなすのは自然信仰だ。1年の暦で最も大切なのは、10月31日の日没から11月1日にかけての万霊節で、霊を静かに供養する。これがハロウィンにつながるのだが、大切なのは生と死を循環、再生ととらえる点だ。これはケルトの特徴的なデザイン、渦巻き文様にも反映されている。 

著者は『アーサー王伝説』の起源にも迫り、ケルトが歴史のダイナミズムの中で育まれたことを明かす。ケルトを知れば、ヨーロッパへの理解が深まることは間違いない。

『ケルトの想像力 歴史・神話・芸術』

鶴岡真弓 著
青土社
¥3,888(税込)