四角い美術館で働く四角い人は、身に覚えのあるいつかの自分かも。

  • 文:Mika Hosoya

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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

リューベン・オストルンド

四角い美術館で働く四角い人は、身に覚えのあるいつかの自分かも。

木村絵理子横浜美術館主任学芸員

夫婦や家族、男と女の役割をシニカルに描いた『フレンチアルプスで起きたこと』が日本でも公開され、話題を呼んだリューベン・オストルンド監督。 スウェーデンが生んだ若き巨匠が、ついにカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した最新作。© 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

箱モノ行政、杓子定規、お堅いなど、美術館をめぐる形容詞には、とかく四角いものが多い。映画『ザ・スクエア』はその名の通り、四角四面な美術館を舞台にした悲喜劇である。
主人公は架空の「X-王立美術館」チーフ・キュレーターのクリスティアン。インタビューやスピーチでは知的な言葉を操り(ただし、引用とたとえ話ばかりで、彼自身の言葉はほとんどない)、クルマは環境に配慮したテスラと、いわゆる「意識高い系」のエリートだ。一夜をともにした記者のアンによると、彼は「プライドが高く、地位と権力を利用して女性を征服しようとする男」。スピーチ前にはアドリブ風のコメントまでをも入念に練習し、美術館の行き過ぎた広報への批判に対しては、「表現の自由を守るべく断固として戦うべきだ」と理想を掲げるも、スポンサーが降りたらどうする?と問われるとすぐさま言葉を翻してしまう弱さとも表裏一体。その彼が街中でスリに遭ったことから、思いがけないトラブルの連鎖に巻き込まれてしまうのがこの映画のストーリーだ。
物語が進むにつれ徐々につまびらかになるのは、仕事では正義感や平等主義を掲げていても、実生活では低所得者や移民に忌避感を抱き、部下へのパワハラめいた態度が表れてしまうといった本音と建前の二重構造である。さらに話が進むにつれて、これをやられてもあなたは許せるかと問われるような「一線を超える」場面が続く。イベント中に奇声をあげる来場者、美術館の資金集めのパーティーで「やり過ぎ」のパフォーマンスを披露するアーティスト……。
自由も信頼も、他者への寛容性も、結局は一定の枠(スクエア)の中でしか実現できないのではないか。気付きたくなかった自分の弱さや矛盾を突き付けられる、なんとも身につまされる映画だ。

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

監督:リューベン・オストルンド 
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェストほか
2017年 スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク合作映画 2時間31分 
4月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開。
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/