ひとりで糸を編んで、 私のニット世界をつくる。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    高橋一史・文
    text by Kazushi Takahashi

    ひとりで糸を編んで、 私のニット世界をつくる。

    蓮沼千紘Chihiro Hasunuma
    ニットクリエイター
    1986年神奈川県生まれ。文化服装学院卒業後の2008年にアパレルの企画職に就く。11年に退社し独立。在学中に始めたブランド「アン/エディ」と平行してミュージシャンの衣装制作なども行う。

    手編みのニットには、数多いファッションアイテムのなかでも際立った個性がある。大きな特長は、一本の糸だけでつくれる服ということ。さらに、最初から最後までたったひとりで製作できることも見逃せない特徴だ。手編みの作業は、画家がひとりでカンヴァスに向かい、絵筆を走らせるのと似ている。ニットは、個人の思い入れや感情がそのまま形になるのだ。
    「ニットクリエイター」を名乗る蓮沼千紘も、こうしたニットの特性に魅せられた人物である。
    「ファッションブランドと、ミュージシャンの衣装などをおもに手がけています。アシスタントはいますが、編むのは自分ひとりです。編む行為を通じて内面が表れるんです。生地づくり、パターン制作、縫製など多くの人が関わるアパレルの仕事とは違いますね」 
    そんな彼女も大手アパレル勤務を経験している。当時はカットソーなどのデザインを手がけていた。
    「ファッション専門学校でニットの技術を学び、一度は就職しました。やるからにはひと通りやれるようになろうと考えていましたが、日常の服を“デザイン”するのは、私より得意な人がいる。私は自分の世界を“クリエイト”する道を選びました」 
    独立して個人活動を始め、主として一点モノを扱うファッションブランド、「アン/エディ」を立ち上げた。蓮沼は、太めの糸と異素材を混ぜ、編み目にゆとりのあるニットを創造する。ときには身体のラインからそれた、彫刻のような立体的なフォルムを描き出す。ブロックごとに多くの色糸を配置する、強いコントラストの色使いも彼女が得意とする作風だ。
    「多色づかいの理由は明確ではないのですが、子どもの頃に塗り絵が好きだったことと関係しているのかも」 
    ニットは、着る人の動きや身体のラインに応じて表情が変化していく服だ。自由にどんな形でもつくることができ、身体との間に空気を含んで広がる。いわば、空間表現にも通じる手法。蓮沼は現在、ニットで空間表現を行う活動も視野に入れ始めた。
    「ファッションの合同展示のエントランスをニットで覆った経験もあって、空間に興味が出てきました。ミュージシャンの衣装だけでなく、ステージそのものの空間をつくるのも楽しそうです。さまざまな表現を通じて、より多くの人にニットの可能性を感じてもらえたら嬉しいです」 HPはこちらから→http://chihiqohasunuma.wix.com/aneddy

    works

    表参道のギャラリー、ロケットで開催中の個展で発表中の新作。鏡などの異素材も織り交ぜられた、カラフルな一着だ。photo by Natsumi Hoshi

    2015年冬に発表した「エクステンション」より。ヘアメイクにニット素材を多用する点も蓮沼らしさのひとつ。photo by Hidemasa Miyake

    ※Pen本誌より転載