さまざまな光に彩られた、 フラメンコ・ギターの音色。

  • 文:原 典子

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『洞窟の神話』

カニサレス

さまざまな光に彩られた、 フラメンコ・ギターの音色。

原 典子音楽ライター


光が強ければ、そのぶん影も濃い。フラメンコといえば、強烈なコントラストが織りなす世界をイメージする方も多いことだろう。しかしカニサレスの新作アルバムは、柔らかな木漏れ日や神秘的な月の光など、温度や色合いの異なる様々な光に彩られている。 

フアン・マヌエル・カニサレス。かつてパコ・デ・ルシアのバンドでセカンド・ギタリストを務めて頭角を現した彼は、いまやフラメンコ・ギターの最高峰に立つ存在であると同時に、クラシックの分野でも高く評価され、ベルリン・フィルとも共演している。ここ数年はアルベニス、グラナドス、ファリャといったスペインのクラシックの作曲家たちの作品に取り組んでいた彼の、8年ぶりに発表するオリジナル・アルバムが『洞窟の神話』である。「子どもの頃からフラメンコの伝統の中で育った私にとって、フラメンコは〝洞窟の中の光〞でした。そして音楽院で音楽の基礎を学ぶことによって、〝太陽の光の言語〞を手に入れることができたのです」。そんなカニサレスの言葉通り、今作ではクラシック作品から得たインスピレーションが、見事にフラメンコ表現の中に昇華されている。

「雨の中を傘をさして歩いていると、頭は濡れなくても、家に帰ってみたらズボンがびしょ濡れだったということがあるでしょう? 同じように、クラシックから受けた影響は、目に見えない形であっても、必ずアウトプットされていると思います」 

多重録音も駆使したレコーディングは、ホームスタジオにて妻の真理子さん(スペインでサウンドエンジニアの技術を学んだそう!)との二人三脚で行われた。パッションとインテリジェンスが高次元で融合するカニサレスのギターは、フラメンコ・ファンに限らず、すべての音楽ファンに向けて広く開かれている。

1997年に『イマンとルナの夜』でアルバム・デビュー。ジャズ、クラシック、ロックなどあらゆる要素を吸収した演奏と、華やかなアレンジとでフラメンコ界に新風を吹き込み、絶賛を浴びた。2018年9月にクインテット編成で来日公演を行う予定。

『洞窟の神話』

カニサレス
VITO-468
プランクトン
¥3,024(税込)