「すべては彫刻だ」と言った男は、 大地に己を見出した。

  • 文:高瀬由紀子

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『石を聴く イサム・ノグチの芸術と生涯』

ヘイデン・ヘレーラ

「すべては彫刻だ」と言った男は、 大地に己を見出した。

高瀬由紀子ライター

イサム・ノグチとは、こんなにもエネルギッシュで、頑固で、不屈の精神に満ちたアーティストだったのか。注釈を除く2段組の本文だけでも500ページ近くにおよぶ、分厚い評伝本から伝わってくる熱量に圧倒される。 

20世紀を代表する彫刻家の生涯は、とにかく波瀾万丈だ。アメリカ人の母と日本人の父との間に生まれ、日本での少年時代を経て単身アメリカへ。以来、彫刻家コンスタンティン・ブランクーシの助手を務めたパリ留学、フリーダ・カーロと激しい恋に落ちたメキシコ滞在、第2次大戦中にアリゾナの日系人強制収容所で過ごした日々、戦後に日本の女優・山口淑子と北鎌倉で過ごした新婚生活など、絶えず東西を往来しながら創作を続ける。 

そんな世界を股にかけた活躍ぶりや華やかな女性遍歴もさることながら、次々と新たな挑戦に向かう、創造者としての尽きせぬ意欲には脱帽するしかない。プラスティック、布、金属といった多彩な素材への取り組みに加え、オブジェ、家具、照明、舞台装置、さらには庭や公園まで「すべては彫刻だ」と言い放って挑み続けた。 

とどまるところを知らない創造の原動力を、ノグチは「帰属への願望」だと語る。日・米の男女の下の婚外子という生い立ちは、常にどこにも属していないという孤独感を抱かせた。彫刻をつくることで「自分自身を大地に、自然に、世界に埋め込む道を探し、発見した」のだと著者は推察する。 

大地とのつながりを求めたノグチが、後半生に真摯に対峙した素材は石だった。四国にアトリエを構え、大地そのものである石を彫り、数々の傑作を生み出す。「自然石と向き合っていると、石が話を始めるのです。その声が聞こえたら、ちょっとだけ手助けしてあげるんです」。本書のタイトルにも通じるノグチの言葉は、達観した仏師のように静かで深い。

『石を聴く イサム・ノグチの芸術と生涯』

ヘイデン・ヘレーラ 著 
北代美和子 訳 
みすず書房 
¥7,344