英国の“白い文化”を罵倒しつつも、“かつての英国”を継承したバンド「ファット・ホワイト・ファミリー」

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    『サーフス・アップ!』

    ファット・ホワイト・ファミリー

    英国の“白い文化”を罵倒しつつも、“かつての英国”を継承したバンド「ファット・ホワイト・ファミリー」

    野田 努音楽ライター

    2011年にサウス・ロンドンで結成。13年4月リリースのファースト・アルバム『シャンパン・ホロコースト』では、過激な歌詞で話題に。今作は、アークティック・モンキーズやフランツ・フェルディナンドを擁する名門レーベル「ドミノ」移籍後第一弾。

    “イングリッシュネス(英国らしさ)”を巡って、今イギリスは揺れている。ブレグジットの背後にあるのも、“かつての英国”と“これからの英国”との対立と言えなくもない。
    2013年にデビューしたロンドンのバンド、ファット・ホワイト・ファミリーの新作、『サーフス・アップ!』は“イングリッシュネス”満載だ。「デブの白人家族」という自虐的なバンド名もさることながら、彼らの音楽は、由緒正しき英国ロックのDNAが満タンに詰まっている。もちろん紅茶でも王室でも田園風景でもない。たとえるならプライマル・スクリーム、ハッピー・マンデーズ、ジーザス・アンド・メリー・チェイン、ストーン・ローゼズ……。アメリカのソウルやファンクを消化し、リズムはグルーヴィーで、そして佇まいはドラッギーで、やけっぱちで切ない音楽。おう、俺らダメ人間だぜ~と胸を張りながら音楽を演奏する。お行儀の悪い、しかし最高の“イングリッシュネス”を披露する。
    そもそも彼らときたら、時代錯誤ともいえる5人組のロック・バンド。彼らには、18年に他界したポストパンクにおけるカリスマ・ヴォーカリストの名を名乗った「アイアム・マーク・E・スミス」なるシングルがあるし、UKが生んだ最強のノイズ・バンド、スロッビング・グリッスルのアルバム・カバーを模倣したシングルもあるが、その題名は「ホワイテスト・ボーイ・オン・ザ・ビーチ(浜辺のもっとも白い少年)」。ファット・ホワイト・ファミリーは英国の「白い文化」を罵倒し、同時に“かつての英国”を継承もしている。彼らは逆説的に“これからの英国”であり、こんな濃い“イングリッシュネス”を持ったバンドは、近年あまりいなかったように思われる。こんな時代、正気でいられるか、ぶっ飛んでいようぜ――音楽の向こうからそんな声が聞こえてくる。

    『サーフス・アップ!』
    ファット・ホワイト・ファミリー
    BRC-597
    ビート・レコーズ
    ¥2,376(税込)
    4/19発売