世界を目指す少女のドラマに、ハッとさせられる共時性を見た。

  • 文:水道橋博士

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『ダンガル きっと、つよくなる』

ニテーシュ・ティワーリー

世界を目指す少女のドラマに、ハッとさせられる共時性を見た。

水道橋博士お笑い芸人

出演作を厳選しているインドの国民的スター、アーミル・カーンが主演を務め、国内のみならず中国でも大ヒットを記録。「ダンガル」はインドの言葉でレスリングを意味する。本作をきっかけにインドでは競技を始める少女が増えたそうだ。©Aamir Khan Productions Private Limited and UTV Software Communications Limited 2016

『ダンガルきっと、つよくなる』は、「インド映画で世界興収ナンバー1」「昔、レスリング選手であった父が娘に夢を託し国際大会の金メダルを目指す物語」と、事前に断片的なデータを知らされていた。 

インドの国民的スター、アーミル・カーンの主演作は 『きっと、うまくいく』、『PK』を観ていた。傑作だった。故に「きっと、面白くなる」ことは確信していたが、レスリングを題材にエンタメが成立するのかは疑問があった。レスリングはルールの専門性が高く、日本女性が最も実績のある五輪大会ですらも「面白さ」からは遠いという先入観があったからだ。 

試写後、この予断は見事に覆され、すぐに惹句を書いた。「インド人以外もビックリ! !誰が見ても文句なく映画の金メダルを差し上げるだろう」 

テンポ良い達者な語り口、大地と大自然を画角に取り入れた映像は眩いばかり。伏線の回収も見事だ。実話ベースのスポ根物語だが、娘が強くなる過程で父の手を離れ、ナショナルチームに預けられ……陰謀に巻き込まれる。 

試写から数日後、文春砲が国民栄誉賞、伊調馨と日本レスリング協会のパワハラ醜聞を報じ、唖然とした。なぜなら、それはこの映画の物語の展開に酷似するからだ。映画と現実の共時性は起こりうる。たとえばアカデミー脚本賞を受賞した『スリー・ビルボード』を日本で観た人は、誰もが貴乃花と相撲協会の争いを連想してしまう。そしてこのインド映画を観て、現在の日本の女子レスリング協会の騒動を連想しない人はいないだろう。 

映画は、国を超えて同時多発的に起きる事象を図らずも暗喩してしまう。故に「虚構でありながら現実、実話でありながら寓話」なのだ。「ダンガル」の意は賞金を懸けたレスリング試合のこと。賭けてもいい、この映画は日本でも当たるだろう。

『ダンガル きっと、つよくなる』

監督:ニテーシュ・ティワーリー
出演:アーミル・カーン、ファーティマー・サナー・シャイクほか
2016年 インド映画 2時間20分 
TOHOシネマズシャンテほかにて公開中。

http://gaga.ne.jp/dangal/