800人以上の奴隷を解放した、「最高の女性」が心に刻まれる。

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    『ハリエット』

    ケイシー・レモンズ

    800人以上の奴隷を解放した、「最高の女性」が心に刻まれる。

    清水久美子映画ライター

    ハリエット・タブマンを演じるのは、ブロードウェイミュージカル『カラーパープル』で2016年のトニー賞ミュージカル部門最優秀主演女優賞を受賞したシンシア・エリヴォ。映画出演3本目となる『ハリエット』で初主演を飾り、高い評価を得た。 ©Universal Pictures 

    アメリカでは誰もが知る実在の奴隷解放運動家なのに、日本ではあまり知られていないハリエット・タブマン。そう書いている私も、トニー賞受賞のシンシア・エリヴォが映画に主演したことをきっかけにハリエットを知ったのだから、お恥ずかしい限りだ。
    1849年、女性奴隷としてたったひとりで自由を目指して逃亡し、家族や仲間も助けるために奴隷解放運動組織の一員となり、やがて800人以上の奴隷を解放した“英雄”、それがハリエット・タブマンだ。彼女は奴隷制度そのものを撤廃するために命をかけ、生涯さまざまな活動に身を投じた。映画の冒頭では弱々しい少女のようなハリエット(当時の名前はミンティ)が、逃亡に成功して安全な場所に身を置いたにもかかわらず、自ら危険を冒して家族のもとに戻り、一人ひとりを逃がしていく。彼女が“覚醒”する瞬間がとても印象的で、その姿は神々しい。
    ハリエットは奴隷逃亡の手助けにおいて「失敗したことがない」人物として知られている。南北戦争でも黒人兵士を率いて戦った彼女は、多くの差別が横行していた時代に(残念ながらいまも差別はなくなってはいないが)男女の垣根を軽々と超えていた。
    まさに“ヒロイン”ではなく“ヒーロー”。映画を見ている間、ずっと私の胸は高鳴り続け、ハリエットは私の中で「地球上に存在した最高の女性」として君臨することとなった。
    アフリカ系アメリカ人として史上初めて新しい米ドル紙幣に肖像が採用されると発表された、そのヒーローを演じたシンシア・エリヴォはアカデミー賞主演女優賞と、自ら歌うテーマ曲「スタンド・アップ」で歌曲賞にノミネートされた。『ハリエット』はミュージカルではないが、要所要所で歌が重要なポイントとなり、世界で絶賛される“ディーバ”シンシアの力強く美しい歌声を聴くことができる。

    『ハリエット』
    監督/ケイシー・レモンズ 出演/シンシア・エリヴォ、レスリー・オドム・Jr.ほか
    2019年 アメリカ映画 2時間5分 ※公開時期調整中。事前に下記サイトにて上映情報の確認を
    https://harriet-movie.jp/