バンド感がありつつも心癒やす、これぞ“珊瑚礁ロック”

『ハッピー・キャンパー』

サマー・ソルト

バンド感がありつつも心癒やす、これぞ“珊瑚礁ロック”

鈴木宏和 音楽ライター

USオースティンのデュオ。60年代ポップやボサノヴァなどに影響された、ドリーミーでアンビエントなポップ・サウンドを、現代的なユルさと洒脱感で奏でる。今作は、2018年9月にデジタル配信のみで自主リリースされたファーストを世界に先駆けて日本独自CD化したもの。

本作は、デジタル配信のみで自主リリースされていた、米オースティンのインディ・デュオによる1stアルバムで、全世界に先駆け日本独自CD化されるという。デュオ名義もアーティスト(&ジャケット)写真もビミョーなので、アルバム・タイトルを深読みしたくなった。いくらなんでもこの“キャンパー”は、キャンプをする人という、まんまの意味ではないだろうと。調べてみたら、“ハッピー・キャンパー”自体がスラングで、とても幸せな人とか、幸せ者という意味らしい。
ならば、これはきっと「おめでたいヤツ」的な、皮肉を利かせたタイトルに違いない。なんせ、こんなご時世なんだし……と、考えたのも束の間、音を聴いて、そうではないかもしれないと思い、歌を聴いて、絶対にそうではないと確信した。なんという多幸感なのだろう。キラキラと降り注ぐ陽光に全身が包み込まれるような、たおやかな陶酔へと連れ出してくれる1枚だ。
絶妙に心地よい隙間のある、ローファイでオーガニックなバンド演奏と、これもまた絶妙な親密感のハイトーン・ヴォーカルで紡がれる、ハートフルなメロディ。ボサノヴァとラウンジとオールディーズのグッド・フィール要素を合わせたようなサウンドは、ドリーム・ポップとも呼べるし、テンポがゆったりなのでチルアウトとも呼べるだろう。でもちょっと、ニュアンスが違う気がする。もっとバンド感が強くて、ロックな手触りなのだ。
何のことはない、本人たちが自身のサイトで最高の表現をしていた。その名も“Coral Reef Rock(珊瑚礁ロック)”。とかく面倒でうるさい時代に、心のオアシスになってくれそうな音楽に出会えたことが嬉しい。本稿執筆時点で歌詞は未着ながら、曲名や断片的に聴き取れるフレーズからは、寓話のようなファンタジー性が感じられ、こちらも興味が尽きない。

『ハッピー・キャンパー』
サマー・ソルト
PCD-22411
Pヴァイン
¥2,376(税込)
4/3発売

バンド感がありつつも心癒やす、これぞ“珊瑚礁ロック”