弱者に牙をむく社会に、怒りを表したグザヴィエ・ドランの闘い。

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    『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』

    グザヴィエ・ドラン

    弱者に牙をむく社会に、怒りを表したグザヴィエ・ドランの闘い。

    村尾泰郎 ライター

    19歳で発表した『マイ・マザー』から10年、グザヴィエ・ドランにとって初の英語作品を完成させた。「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのキット・ハリントン、天才子役のジェイコブ・トレンブレイ、ナタリー・ポートマンが監督のもとに集った。 ©2018 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UKDONOVAN LTD.

    子役としてデビューし、19歳で映画監督に挑戦。20代でカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞して、世界的な監督となったカナダの鬼才、グザヴィエ・ドランの新作は、ある俳優の謎の死をめぐる物語だ。
    2006年、ニューヨークで人気絶頂の俳優、ジョン・F・ドノヴァンが29歳でこの世を去る。自殺か事故か、その真相は謎に包まれたまま10年の月日が経ち、ルパート・ターナーという無名の若い俳優が一冊の本を出版する。そこにはジョンとルパートの間に交わされた秘密の文通について綴られていた。映画では、少年時代のルパートと、死の直前のジョンの物語が同時進行。ふたつの物語が交差する時、悲劇が起こる。
    ドランは8歳の時、大ファンだったレオナルド・ディカプリオに手紙を書いたことがあり、その体験から本作が生まれたらしい。ジョンとルパートに共通しているのは、母親との間に確執があることだ。ドラン自身の生い立ちを反映させた複雑な母子関係は、これまで彼が何度も描いてきたテーマ。今回はナタリー・ポートマン、スーザン・サランドンといったアカデミー賞受賞女優が強烈な母親を演じている。
    一方、ジョンを演じるのは『ゲーム・オブ・スローンズ』でブレイクしたキット・ハリントン。ジョンはある秘密を抱えて孤独に生き、ルパートはいじめにあっている。そんな心に傷をもつ彼らの葛藤を、ドランは多彩な音楽を織り交ぜた華麗な映像でドラマティックに描き出していく。10代から同性愛であることをカムアウトしているドランにとって、社会的弱者を主人公にして映画を撮ることは闘いだ。親子関係を軸に、弱者に牙をむく社会に強い怒りを表した本作。そこで見せるドランの「美しい闘い」に痺れた。


    『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
    監督/グザヴィエ・ドラン
    出演/キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドンほか
    2018年 カナダ・イギリス合作映画 2時間3分 3月13日より、新宿ピカデリーほかにて公開。
    http://www.phantom-film.com/donovan/