恋に落ちる瞬間が素敵だ!種を超えた美しきロマンスを描いた映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。

  • 文:新谷里映

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『シェイプ・オブ・ウォーター』

監督/ギレルモ・デル・トロ

恋に落ちる瞬間が素敵だ!種を超えた美しきロマンスを描いた映画『シェイプ・オブ・ウォーター』。

新谷里映ライター

声なきヒロインを演じるのは『ブルージャスミン』 や『パディントン』シリーズでお馴染みのイギリス人女優、サリー・ホーキンス。職場の同僚にオクタヴィア・スペンサー、アパートの隣人にリチャード・ジェンキンスと脇役にも実力派が揃った。©2017 Twentieth Century Fox

『シェイプ・オブ・ウォーター』で描かれる、恋に落ちる瞬間がとても素敵だ。物語は1962年のアメリカ。冷戦、宇宙開発競争、公民権運動、ベトナム戦争、人種差別、男女不平等……さまざまな問題を抱えていた時代だが、どんな時代であっても、人は恋に落ち、愛し合う。この映画が面白いのは、リアルな時代背景をまるでおとぎ話のように組み立て、そこに声を失くしたイライザ(サリー・ホーキンス)と、アマゾンの奥地から連れて来られた不思議な生きもの=〝彼(ダグ・ジョーンズ)〞とのラブ・ストーリーを添えていることだ。 

彼は一体何者なのか?   なんのために人間に捕らわれたのか?  彼の運命はどうなってしまうのか? というサスペンス要素もありつつ、ベースはやはりふたりの愛の物語。彼の容姿は魚のようでもあり人間のようでもあり、なんとも不思議で魅力的だ。 

ギレルモ・デル・トロ監督はこのクリーチャーをリアルであると同時に恋に落ちる美しい存在にしたかったそうだが、ラブ・ストーリーではない別のジャンルの映画に彼が登場していたら、グロテスクで不気味なキャラクターとして映るかもしれない。でもこの映画でイライザは、彼と出会った瞬間になにかを感じ心を奪われる。ひと目惚れの対象として描かれているのだ。そして観客も彼女の視線を通して、彼の見た目ではなく心に興味をもつ。 

現代劇としてはきれいごとに映ってしまいがちなテーマではあるが、彼らが体現することによって、いかに尊いか美しいかを突き付けられる。なにげない日々の中で一緒にゆで卵を食べ、一緒にレコードを聴き、手話や目で気持ちを伝えあうふたり。愛するとはこういうことなのだと、はっとさせられる一作だ。

『シェイプ・オブ・ウォーター』

監督:ギレルモ・デル・トロ 
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンスほか 
2017年 アメリカ映画 2時間4分