異才との出会いで燃え上がる、マレイの咆哮を聞け。

『ブルース・フォー・メモ』

デヴィッド・マレイ

異才との出会いで燃え上がる、マレイの咆哮を聞け。

佐藤 渉 「Strictly Bookss」店主

再びジャズが元気だ。ロバート・グラスパーら、ヒップホップ以降のジャズ。ケンドリック・ラマー「ToPimpaButterfly」などに見る、ヒップホップ側からの反応。1917年の誕生から100年を経てもなお、ジャズは新しい表現の起爆剤となりえている。 

そんななか、ジャズのルーツを感じさせる骨太な一枚が登場した。70年代NYのロフトジャズシーンに現れ、豪快なプレイが魅力のサックス奏者、デヴィッド・マレイの5年ぶりの新作だ。 

最初の一音から、グッと耳を持っていかれる。マレイの吹くテナーサックスは、力強くあたたかい。たっぷりと息を吹き込み豊かなビブラートを聞かせる中音、「バッ」と破裂音を含んだ迫力の低音、キリキリと鳴くフラジオ(高音部の特殊奏法)まで、20世紀に探求されたサックスの可能性を凝縮したようなプレイ。そこに、歌心が加わる。2013年のフジロック出演で会場を沸かせたように、そのプレイはジャズファン以外にも届く懐の深さがある。 

さらに本作では、NYのスラム詩人ソール・ウィリアムズを大胆にフィーチャー。美しいメロディのバラードにハードバップ、ファンクやブルースまで、多彩な楽曲群にポエトリーリーディングが重なり、緊張感を持ち込んでいる。黒人思想家であり詩人のアミリ・バラカやイシュメール・リードとのプロジェクトも行ってきたマレイは、こう語る。「彼の言葉は激しいが、先見の明がある。私はいつも、音楽を通じて詩人のビジョンをより明瞭に伝えられるように努力している」 

ジャズを100年生かし続けた燃料の一つが人種間の緊張関係であるとすれば、現代でジャズが再び活性化するのも頷ける。才能との出会いを薪として燃焼するマレイの咆哮、ぜひ大音量で。

1955年、米カリフォルニア生まれ、70年代半ばよりNYで活躍。正統派とフリージャズの要素を併せもつサックス奏者であり、88年にはジョン・コルトレーンの追悼集でグラミー賞を受賞。現在までに150作以上を発表する、現代ジャズ界の巨人。

『ブルース・フォー・メモ』

デヴィッド・マレイ 
AGIP-3611 
インパートメント 
¥2,484

異才との出会いで燃え上がる、マレイの咆哮を聞け。