日本で最も恐れられる、「文春砲」が生まれた舞台裏『2016年の週刊文春』。

  • 文:今泉愛子

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『2016年の週刊文春』 柳澤 健 著 光文社 ¥2,530(税込)

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】

雑誌『週刊文春』は、いかにして「文春砲」を放つようになったのか。かつて編集部に在籍し、歴代の名物編集長、花田紀凱と新谷学の仕事ぶりを身近で見てきたノンフィクションライターの著者は、関係者への丹念な取材を基に、詳細をリポートする。

創刊は、1959年に遡る。先んじて1956年に創刊した『週刊新潮』の部数をようやく上回ったのは、花田が編集長を務めていた88年のことだった。当時、週刊誌は既に新聞社の社会部以上の取材力を備えていた。生命保険目当てに妻を殺害したと疑われ、世間を騒がせたロス疑惑を、84年に「疑惑の銃弾」というタイトルで真っ先に記事にしたのは『週刊文春』だ。

その後もスクープを連発し、2012年に新谷が編集長に就任すると、さらに勢いが加速する。現代のベートーベンと絶賛されていた「聴力を失った作曲家」が実は健常者でゴーストライターまでいたことを暴くなど日本中を騒がせる話題を次々と提供。ベッキーの不倫や甘利明元経済再生担当大臣の金銭スキャンダルなどのスクープを放ち、「文春砲」という言葉が定着したのが、題名に掲げられた16年。20年には、森友学園問題で決裁文書の改ざんに関与させられ、自殺した財務省職員の妻の告発でも世間をゆるがせた。

本書が明かすのは、『週刊文春』と文藝春秋という会社の歴史であり、出版メディア史、日本の社会史でもある。読者の興味を引くのはどんなテーマか、編集部員はどのように働いてきたか。社内抗争もたびたび起これば、記事に対する訴訟に立ち向かうこともある名物編集長たちの仕事術も圧巻だ。

最終章ではウェブの「文春オンライン」と雑誌『週刊文春』との棲み分けや収益構造に迫り、出版界の未来まで示唆するさまが見事だ。


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