スラップ・ベースがベキベキ鳴り、音の“新しい波”が打ち寄せる。

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    『オンダ・ノヴァ』

    ルーカス・アルーダ

    スラップ・ベースがベキベキ鳴り、音の“新しい波”が打ち寄せる。

    栗本 斉音楽ライター

    都会的なメロウ・グルーヴでブラジリアン・フュージョン・ファンやDJの心をわしづかみにしてきたアルーダ。今作はエヂ・モッタの『クライテリオン・オブ・ザ・センシズ』と並ぶ、ブラジリアンAOR~モダン・ソウルの近年の最高傑作とされる。

    メロウなエレクトリック・ピアノ、グルーヴするリズムに絡むベース・ライン、そしてスウィート・ヴォイスで歌われるどこか懐かしい感覚のメロディ。一聴しただけだと1970年代から80年代にかけてのフュージョン・グループやAORシンガーかと思ってしまうのではないだろうか。ルーカス・アルーダの新作『オンダ・ノヴァ』は、ポルトガル語で“新しい波”という意味。このレアグルーヴ的なサウンドにこう名付けるセンスがユニークだ。 
    ルーカス・アルーダは、今最も注目されているブラジル出身のアーティストである。2013年に発表したデビュー作『サンバディ』で脚光を浴び、その2年後の2作目『ソラール』でDJたちを狂喜させた。そして待望の3作目となる本作では、さらにそのサウンドを研ぎ澄ませている。モノクロームのジャケット写真も一昔前のシンガーソングライター風だし、その甘い声とモダンなサウンドを聴いていると、マイケル・マクドナルドやネッド・ドヒニーなどを彷彿させるものがある。ヤワなようで実は芯がある。洗練されているのに、どこか男臭い。まさにアダルト・コンテンポラリーなブラジリアン・ポップなのである。 
    さらに、彼の作るサウンドにも触れておきたい。たしかにアジムスやデオダートなどの往年のブラジリアン・フュージョンに質感は似ているが、今の耳で聴くとこれらも昨今のクラブ・ミュージックで多用されるビートやシンセ・サウンドに通じるものがあり、まさに『オンダ・ノヴァ』は過去と未来をつなぐ音作りをしているといってもいいだろう。とりわけベキベキと鳴るスラップ・ベースは、今だからこそとても新鮮に感じられる。懐かしいようで新しい。まさに“新しい波”を感じさせる音楽なのだ。

    『オンダ・ノヴァ』
    ルーカス・アルーダ
    PCD-24816
    Pヴァイン
    ¥2,592(税込)
    3/6発売