フィメール・ラッパーの勢力図を、塗り替えるのは彼女だ!

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    『グレイ・エリア』

    リトル・シムズ

    フィメール・ラッパーの勢力図を、塗り替えるのは彼女だ!

    山澤健治エディター/音楽ジャーナリスト

    1994年、英ロンドン生まれ。ナイジェリアにルーツをもつ女性ラッパー。9歳でラップを始め、16歳で楽曲を制作。2014年、20歳で発表した無料EPで脚光を浴び、翌年デビュー。16年、『フォーブス』誌で“30歳未満の30人の欧州アーティスト”に選ばれる。

    「彼女はいま、いちばんヤバいかも」……ヒップホップ・シーンの頂点に立つケンドリック・ラマーをして「本物」と言わしめたリトル・シムズは、ロンドン出身のフィメール・ラッパー。ローリン・ヒルなどからも絶賛を浴び、ゴリラズとの共演も話題を集めるなど、最近の活躍には目覚ましいものがある。2010年以降だけで10を超える作品を発表し、まさに八面六臂の快進撃を繰り広げている人気者だ。
    通算3作目となる新作『グレイ・エリア』は、そんな彼女の勢いがそのまま反映された充実の作品だ。旧知の仲であるインフローをプロデューサーに迎え、いままで以上にソウルフルで、ヒップホップのエッセンスをたっぷりと凝縮した作品に仕上げている。それも、トラップというヒップホップの一大潮流とは一線を画す、ジャンルを往来するヒップホップ・トラックが満載で聴き心地の華やかさたるやこれ以上を望めないほど。サンダーキャットやエレクトロ・バンドのリトル・ドラゴン、ジャマイカのレゲエ・アーティストのクロニックスなど、ジャンルの壁を超えて集まった尖鋭的なゲスト陣の顔ぶれを見ても、それは明らかだろう。
    もともとヒップホップとグライムに両足またげて立っていた彼女だが、ここでも音圧高めのディープファンクやメロウなネオソウルをエクスペリメンタル・ポップと融合させ、これぞリトル・シムズといえるサウンドを確立。コウメ太夫がネタで口ずさむ節回しに似た曲「ワン・オー・ワン・エフエム」でさえ、彼女のコケティッシュなMCマジックで魅惑の一曲に仕上げてしまうのだから、もはや脱帽である。
    ブラック・ミュージックの隆盛で迎えた「ポップ・ミュージックの転換期」にこれほどふさわしい作品はないだろう。カーディ・Bを筆頭に群雄割拠するフィメール・ラッパーの勢力図を塗り替える快作だ。

    『グレイ・エリア』
    リトル・シムズ
    BRC-590
    ビート・レコーズ
    ¥2,592(税込)
    2019年3/1発売