自動運転車が走る未来は、果たしてどうなるのか?

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    『ドライバーレスの衝撃 自動運転車が社会を支配する』

    サミュエル・I・シュウォルツ 著 小林啓倫 訳 

    自動運転車が走る未来は、果たしてどうなるのか?

    サトータケシ 自動車ライター

    もうすぐ来ると言われている、自動運転車の時代になったら──。シートに寝転がって映画を観ながら帰省しよう。お年寄りや身体の不自由な方も、好きな時に好きな場所へ行くことができる。自動運転車ばんざ~い!
    でもちょっと待てよ、と本書は釘を刺す。誰もが自動運転車で移動すれば、道路や駐車場があふれかえり、エネルギーや環境の問題も発生するのだ。
    とはいえ、ニューヨーク市運輸局の局長を務めた著者は自動運転車を否定するわけではない。その普及に起因する問題を明示し、解決策を提案する。たとえば前述した交通集中対策には、都市部へ進入する際の課金制度やライドシェア(乗り合い)が有効。
    自動運転車を軸に、社会はグルッと変容すると著者は言う。アメリカだけでも500万人ものドライバーが職を失う可能性があるから、雇用は大きな影響を受ける。自動運転車が集める「いつ、どこへ、なにをしながら、なんの目的で出かけたか」という情報は、監視社会につながる恐れがある。一方でこの究極のビッグデータは、広告ビジネスに大きなチャンスをもたらす。
    こうした変化に、我々はどう対応すべきか。全米一の交通専門家と評される著者は、“人間が運転する自動車”が普及した20世紀を反省せよと説く。自動車を主役に据えたことで、環境や安全に問題がある社会になってしまったというのだ。今度こそ、人間中心の自動車社会を築かなければならない。そのために著者は、経済や都市計画をトータルで論じる。
    自動運転車がいつ実現するのか、どんな技術が必要なのかを語る論者は多い。その中で、自動車社会を俯瞰する本書の視点は貴重だ。自動運転車の実現より、安全で豊かな社会にすることのほうが重要だろう。自動運転車は、あくまでも理想の社会を築くためのツールなのだ。

    『ドライバーレスの衝撃 自動運転車が社会を支配する』  サミュエル・I・シュウォルツ著 小林啓倫訳 白揚社 ¥2,750(税込)