エンジン音だけで度肝を抜く! フォードVSフェラーリは...

『フォードvsフェラーリ』

ジェームズ・マンゴールド

エンジン音だけで度肝を抜く! フォードVSフェラーリは、絶対に映画館で観るべき1本だ。

青木雄介 編集者

監督は『LOGAN/ローガン』をはじめ大作を手がけてきたハリウッドのヒットメイカー、ジェームズ・マンゴールド。『グラン・プリ』や『栄光のル・マン』など60年代、70年代の映画からインスピレーションを得て、臨場感のある映像を完成させた。 ©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

まずオープニングからしてマット・デイモン演じる、キャロル・シェルビーが駆るアストンマーティンDBR1のみなぎるような、生々しいエンジン音で度肝を抜かれてしまう。『フォードvsフェラーリ』はタイトルの通り、すべてが対照構造でできている。世界的なモータリゼーションの担い手であるフォードと、モータースポーツに生涯を捧げたエンツォ・フェラーリ率いるフェラーリ。企業規模や成り立ちも哲学も違えば、自動車文化としての差異もある。
アメリカの大排気量V8エンジン文化と、フェラーリのV12エンジンに象徴される高回転型レースエンジンの理想を追い求めるあまり、狂気をはらんだプロダクトも辞さないイタリアのモータースポーツ文化。その差異を、フォードGT MK2とフェラーリ330 P3のバトルを通してエンジン音や勝負の回転数など、リアリティの積み重ねによって鮮明に見せてくれているのが、とにかく秀逸。クルマ好きはシェルビー自身の手によるシェルビーコブラが全編にわたって走りまわる、その姿だけでも観る価値があるね。
そもそもテキサス出身のレーサーだったキャロル・シェルビーはシェルビーコブラを筆頭に、フォードではマスタングをベースにしたシェルビーGT500、クライスラーではダッジ・バイパーの開発にも携わった。アメリカの自動車業界ではもちろん、モータースポーツの世界でも輝かしい実績を残した国民的なカーガイなんだな。この映画はカーガイ列伝としても面白くてエンツォ・フェラーリはもちろん、稀代のマーケッターとして知られるリー・アイアコッカや後に、F1のコンストラクターになるマクラーレンを創業したブルース・マクラーレンも、ドライバーとして登場する。この辺も現在にも続くF1やスーパースポーツ市場におけるライバル関係として、あわせて観るとより面白さが増すはず。
物語は心臓の持病によりレースを引退したシェルビーが、フェラーリ買収に失敗したフォードの特命を受けて、ル・マン24時間レースでの勝利を義務づけられる。1965年当時はシェルビーがハンドルを握って優勝した1958年とは、勢力図が一変していた。英国車が表彰台の常連だったのに対し、フェラーリが連続タイトルを獲得。当時のフェラーリに勝利するのは無謀と思われていたんだ。そこでファーストドライバーとしてシェルビーが白羽の矢を立てたのが、クリスチャン・ベイル演じる英国バーミンガム出身のケン・マイルズなのね。訛りが強く、レーサーではなく整備士を自任し、直情的で負けん気の強いマイルズが、こだわりの強いMG(英国のスポーツカーブランド)の代理店を異国のアメリカでしている辺りの設定も、もともと英国のモータースポーツと関係が深かったシェルビーとの関係性を示唆していて心にくい。
映画は1966年のル・マン24時間レースを再現すべく、大がかりなロケが行われ、昨今のクルマ映画のようなCGもほとんど使っていない。臨場感のある視点、リアルなクラッシュなど没入感が圧倒的でもある。フォードとフェラーリのエピソードは有名なので、アメリカ人のつくったアメリカ車礼賛のプロパガンダ映画なのかと思いきや、ちょっと様相が違っていた。フォードの内情は醜いし、巨大企業の論理に苦しめられながら戦う現場のエキスパートたち、それを支える愛ある家族像などハートフルなアメリカ映画としても見ごたえ充分。映画『アバター』が美しすぎて、その世界から抜けられないアバター症候群なんて言葉があったが、これはエンジン音だけで現実逃避できるモーターヘッドな映画。映画館で観ないと絶対後悔するはめになる!

『フォードvsフェラーリ』
監督/ジェームズ・マンゴールド
出演/マット・デイモン、クリスチャン・ベイルほか
2019年 アメリカ映画 2時間33分 全国の映画館にて公開中。
http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/

エンジン音だけで度肝を抜く! フォードVSフェラーリは...