音と光の圧巻のドラムパフォーマンスで展開される、写真家・山谷佑介の新作個展『Doors』で‟知覚の扉”を開こう。

  • 文:酒井瑛作

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『77 YAMATANI』 2018年 

暗闇の中、雷鳴のように激しく「ドン」とドラムの音が鳴った。同時に閃光が放たれる……。カメラのフラッシュの光です。

天王洲アイル近くのユカ・ツルノ・ギャラリーにて2018年7月14日まで開催されている、写真家・山谷佑介の個展『Doors』は、自身初となるセルフ・ポートレート作品。しかも、ドラムを叩くライブパフォーマンスをしながら撮影を行うという、過去に類を見ない試みとなっています。振動センサーが取り付けられたドラムを叩くと、カメラのシャッターが切られ、さらにその先には接続された8台のプリンターからリアルタイムに写真が出力される……というなんとも複雑なシステムが組み上げられ、ドラムを叩きながらセルフ・ポートレートを撮ることを可能にしているのです。

簡単に言ってしまえば「ドラムを使ったセルフィー」と説明できそうなところですが、過去には、ライブハウスの床を撮影し、そのプリントを会場で踊る客に踏ませ、アブストラクトな模様をつくり出したシリーズ『ground』や、深夜の住宅街を赤外線で撮影した『Into the Light』など、実験的なアプローチを生み出してきた彼のことなので、そう簡単に終わるはずがありません。

展示タイトル『Doors』の由来は、ウィリアム・ブレイクの詩の一節「もし知覚の扉が浄化されるならば、全ての物は人間にとってありのままに現れ、無限に見える」から引用されたという「The Doors」のバンド名から。山谷は、ドラムを叩くことでトランス状態となり無意識となった自身を写真に収めるという行為が、「扉」を開くと言います。パフォーマンスの他にギャラリーにて展示されるのは、激しくドラムを叩く姿が収められた自身の写真とともに、ドラムを叩いた後に刻まれた痕跡をフォトグラムの技法で転写した作品。そのイメージは、ドラムからカメラへ、そして、プリンターへと複数の機械を経ることで、「生」なパフォーマンスとは一転し、どこかデジタルな手触りが感じられ、機械の存在感が前面に出てきています。果たして「無意識」とはどんな状態なのか? それは「誰」が撮っているのか?  本当にセルフ・ポートレートと言えるのか? などなど、パフォーマンスと写真作品を併せて見ることで、さまざまに考えを巡らすことができます。

写真展示では珍しく、これはとにかく体験しなければわからない試みと言えるでしょう。ライブパフォーマンスが実施される日程に合わせ、展示へと足を運ぶことをお勧めします。

真っ暗な会場で行われたライブパフォーマンスの様子。不規則なドラムの音が続き、時折叫び声や荒い息遣いが聞こえてくる中、フラッシュの光が作家自身の姿を浮かび上がらせます。

壁に設置されたプリンターと、その下に多くの出力された写真が見てとれます。

山谷佑介『Doors』

開催期間:2018年6月9日(土)〜7月14日(土)
開催場所:ユカ・ツルノ・ギャラリー
東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
TEL:03-5781-2525
開廊時間:11時〜18時(火〜木、土) 11時〜20時(金)
パフォーマンス日程:7 月 7 日(土)15時〜
休廊日:月、日、祝
入場無料
http://yukatsuruno.com