紙くずやゴミ箱も作品に!? 現代美術作家・山本桂輔が生み出す不思議な世界に迫ります。

  • 写真:江森康之
  • 文:牧野容子

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2016~2017年に制作された彫刻作品。山本桂輔『地底の雲(眠る私)』photo by Kenji Takahashi © Keisuke Yamamoto, Courtesy of Tomio Koyama Gallery/ Koyama Art Projects

植物やキノコなどの自然界のモチーフと、人間の想像力から生み出された妖精のようなモチーフが独自の鮮やかな色彩の中で一体となり、融合する……。2000年代の制作開始以来、そんな独特の不思議な世界を、彫刻と絵画のふたつの表現で展開し、見る者の心を惹きつけている山本桂輔さん。現在、注目を集めているアーティストです。その山本さんが最新作を制作中と聞いて、アトリエを訪ねてみました。

「生活と創作。それは別々のものではなくて、やわらかくグラデーションのようにつながっている。もっと言えば、レイヤーのように重なっているものだと思うんです」。11月23日(木)から台東区の旧平櫛田中邸で開催される展覧会『木のシンギュラリティ#2』に向けて、山本さんはいまの思いをこんな風に語ってくれました。

「今回の作品を展示する場所は、明治・大正・昭和期を生きた彫刻家、平櫛田中さんのアトリエ兼住居です。彼はそこに、50歳くらいから約50年間住んでいた。奥さんやお子さんたちとのプライベートな生活の場で、制作もしていたわけです。そのような生活と創作活動を併せもつ環境であるということが、いま僕が考えていることとリンクしました」

たとえば、作家が“完成品”と認めるものができ上がるまでには、失敗作もあっただろうし、制作においても生活においても、試行錯誤や葛藤、明かされていない秘密など、さまざまな事柄や思いの変化があったはず……。

「作品として完成した、目に見えるものだけを神格化するのではなく、完成まで至らなかったもの、生まれなかったもの、起きなかった出来事を表現してみたいと思いました。僕は以前から粘土で焼き物の作品をつくっていて、うまくいかないものがあると、ぐしゃっとつぶして丸めて、粘土入れのバケツに戻していました。それがある時、ちょっと待てよ、自分が神かなにかのような視点で、これは失敗だからと決めつけてしまっていいのか……と、捨てることに抵抗を感じるようになって。結局、それらも焼き上げることにしたのです。今回はそういう、“生まれなかったもうひとつの世界”について考えを巡らしています」

機械から押し出されたままで、まだナニモノにもなっていない粘土の塊や、小さく丸められた粘土。そして、ブラックホールのように口を開けたゴミ箱。焼き物や木彫で制作されたそれらのものが、生活と創造が重なる感覚を構成していきます。

「紙くずのような小さな塊を見て、え、これも作品? と思う人もいるかもしれない。でも僕は、どれかがメインの作品、ということではなく、すべてがつながっている感じを等価で見せたいんです」

現在、東京芸術大学大学院に通いながら制作活動を行う山本さん。これまでの主なグループ展に『Twist and Shout: Contemporary Art from Japan』(2009年、バンコク芸術文化センター、バンコク)、『ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉』(2014年国立国際美術館、大阪)など。

制作中の最新作。1本の木から掘り出したゴミ箱の周りに点在するのは、焼き物で表現された“至らなかったものたち”です。11月23日(木)から開催される展覧会「木のシンギュラリティ#2」に展示予定。

東日本大震災が転機となり、色を極力排除した作品に変化。

こちらも現在、制作中の最新作。土練機から押し出されたままの粘土を焼き物で、机は木彫で表現。

山本さんにとって、2011年の東日本大震災がひとつの大きな転機となり、いまにつながっているのだそうです。

「以前の作品は、色彩が派手でボリューム感もあって、生命力にあふれているという印象をもたれることが多かった。でも、大震災が発生して、自分がいかにさまざまなことに対して無自覚であったかを考えるようになりました。経済的に厳しくなったこともあり、道に落ちているものや自分が使っていた道具、ガラクタ屋で買ってきたものなどと向き合いながら、そこに彫刻を施したり、部材を加えたりして擬人化させ、作品をつくっていきました。色に対する認識も改めようと、色は極力、排除しました」

それらの作品をまとめて発表した2012年の個展『Brown Sculptures』は、山本さんの新たな境地を感じさせるもので、大きな話題を呼びました。

「『Brown Sculptures』は、もう1度しっかり世界と向き合う手段を見出すための制作でした。世界をどう認識するかというインプットを意識すること。そして、自分と社会と作品が繋がっていきながら歩んで行くことが、いまの自分には重要だと思っています」

彫刻と絵画を両輪として制作を続ける山本さんに、最近、新たな気づきがあったのだとか。

「僕にとって彫刻は、石ころのような、ただそこにある存在の不思議さを意識させるもの。それに対して絵画は、意識の幅を押し広げるものです。絵画は知覚を通して脳につながり、そこで情報が増幅されていく。脳は無限なので、絵画の中には無限の空間があるのかもしれません。いい絵画は非常に知覚を刺激するものです。そういう、絵画のもつ重要な部分を抽出し、それを彫刻と合わせることができたら……と思っています」

常に、社会と自分とのつながりを意識しながら、生活の流れの中で制作を続けて行きたいと語る山本さん。これから先、どのような作品が私たちの前に現れてくるのか、ますます気になります。

2009年の彫刻作品。山本桂輔『Untitled』。2000年代までの作品にはキノコや草花のようなモチーフがよく使われました。独特の鮮やかな色彩と幻想的な世界感も、この時代の作品の特徴です。 photo by Kei Okano © Keisuke Yamamoto, Courtesy of Tomio Koyama Gallery / Koyama Art Projects

2007年の油彩。山本桂輔『untitled』。「自分は絵画と彫刻の間で常に揺らめいている」という山本さん。「絵画は四次元ポケットみたいな無限のもの」。photo by Shigeo Muto © Keisuke Yamamoto, Courtesy of Tomio Koyama Gallery / Koyama Art Projects

「木のシンギュラリティ#2」

開催期間:2017年11月23日(木・祝)~12月3日(日)
開催場所:旧平櫛田中邸
東京都台東区上野桜木2−20−3
開館時間:10時~17時
会期中無休
会期中入場料無料
※ギャラリートークが12月2日(土)13時~、12月3日(日)13時~開催予定
http://geidaichoukoku.com/archives/category/sculpture