世界のアート事情を、お金と数字から読み解いた。

  • 文:Pen編集部

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美術館で観ていると忘れがちですが、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵も伊藤若冲の絵も、誰かが購入して、いまに受け継がれてきました。売買もアートの価値をはかる重要な物差しなのです。世界のアート市場の規模はどのぐらい? 最も高額で落札された美術品は? 象徴的な数字を手がかりに、「お金」から見えてくるアートの現状をざっくりと捉えてみましょう。

国際的なアートフェア「アート・バーゼル」とスイスの金融グループ「UBS」が、2018年に発表した世界のアート市場についてのレポートによれば、2017年の世界におけるアートの売上高は637億ドル、およそ7兆1344億円(17年の平均レートを1ドル=112円として換算)。1990年から2003年までは272億ドルが最高でしたが04年に300億ドル台へ。以降は基本的に増大する傾向にあります。

07年に659億ドルを記録。08年のリーマンショックを機に09年に395億ドルと下落。翌年には570億ドルともち直し、14年に682億ドルという最高額に達しました。15年は638億ドル、16年は569億ドルとセールは減少傾向にありましたが、17年は前年から12%増加。アジア市場やオークション市場の好調、オンライン取引の増加を考慮すると、アート市場は規模を維持し続けると考えられます。

日本最大のアート見本市を開催する一般社団法人「アート東京」の2018年1月の発表によれば、美術品売買や展覧会など関連事業も含む日本のアート産業規模は、3260億円。アート・バーゼル&UBSの報告書は、世界で100万ドル以上資産を有する人の国別割合はアメリカが43%、日本が8%、中国が6%で、日本のアート市場は小さいと指摘していますが、5000万ドル以上の資産保有者となるとアメリカ49%、中国13%、日本は1%。超高額作品の取引となると難しいのが現実かもしれません。

アート・バーゼル&UBSの報告書によれば、2017年、世界のアート市場のシェア1位はアメリカで42%。2位が中国で21%、3位がイギリスで20%です。中国のシェアは2008年の9%から、09年に18%とアップ。以降は米、中、英の上位3国は変わらず、継続して70%以上を占めています。中国市場では中国の現代作家と中国古美術が人気でアジア美術の価格を押し上げる要因に。昨年、蘇軾の『木石図』が4億6360万香港ドル(約67億円)で落札。今後も国宝級の書画の発見の可能性はあり、活況が見込まれています。

有名なアンディ・ウォーホルの『キャンベル・スープの缶』は、スープ缶を32種類、それぞれ制作したもので、1962年の個展では1点100ドルでした。デニス・ホッパーを含め6人が購入しましたが、ギャラリーオーナーにピンとくるものがあったのかそれらを買い戻し、32点セットで持ち続けることに。95年、ニューヨーク近代美術館はこの32点を推定1500万ドルで買い上げました。作品の価値を見抜いたギャラリストのおかげで、ポップアートの代表作が散逸せずに済んだのです。

2017年、レオナルド・ダ・ヴィンチの油彩画『サルバトール・ムンディ』が4億5030万ドル(約504億円)で落札。過去最高といわれた、ウィレム・デ・クーニングの『インターチェンジ』の取引額、3億ドルを大きく上回りました。競売を行ったクリスティーズは、下見会でアンディ・ウォーホルの『最後の晩餐』、エル・グレコの『死について瞑想する聖フランシスコと修道士レオ』とともに展示、特別な舞台を誂えました。
長らく別の画家の作とされていましたが、池上英洋・東京造形大学教授は、傷みや過去の加筆が修復で取り払われ、レオナルドと工房の作と信じるに足ると言います。「遠赤外線撮影で下絵からの変更も確認されています。写しであれば完成作を模写するのでこうした変更はありません」
ルーヴル・アブダビが近い将来に展示すると発表しています。

1987年、安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)が2250万ポンド(約53億円、手数料除く)で落札したゴッホの『ひまわり』。それまでの絵画落札額の3倍という価格をいぶかしむ人もいましたが、長年オークションに携わるサザビーズ日本代表取締役会長兼社長の石坂泰章は、「このクラスのゴッホ作品はなかなか市場に出ない。仮にいま売却したら、当時の5倍の価格でも欲しい人が10人はいるはず」と話します。この『ひまわり』が多くの人に愛されていることを考えれば価値は計り知れません。

昨年11月、クリスティーズのオークションでデイヴィッド・ホックニーの『芸術家の肖像画(プールと2人の人物)』が、存命作家の絵画として最高落札額の9031万ドル(約102億円)で競り落とされました。それまで存命作家の最高落札額は、2013年、ジェフ・クーンズの『バルーン・ドッグ(オレンジ)』で5840万ドル(約65億円)。記録を塗り替えた理由は、本作がプールと人物を題材としたホックニーの代表作であること。17~18年にテート・ブリテン、ポンピドゥー・センター、メトロポリタン美術館を巡回したホックニーの大回顧展に出品されたことも影響しました。


…以上、「世界のアート事情を、お金と数字から読み解いた。」でした。こちらの記事は、2019年Pen2/15号「いまこそ知りたい! アートの値段。」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから