写真家・中野正貴が撮り続ける“予測不可能都市”、東京。大規模個展でその軌跡をたどる。

  • 文:はろるど

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『Higashi-Azabu,Minato-ku,2004』 窓の間から見た東京タワー。中野は、日本の座敷の奥に座し、内部空間を含めて表の庭を鑑賞するような美意識をひとつのヒントに『東京窓景』シリーズを撮影した。2004年度の第30回木村伊兵衛写真賞を受賞。©Masataka Nakano

2020年のオリンピックに向かって、生き物のように変貌を遂げる巨大都市・東京。その東京を約30年にわたって撮影し続ける写真家、中野正貴の初めての大規模個展が、東京都写真美術館で開催されている。

たとえば銀座や渋谷のメインストリートに、高層ビルの立ち並ぶ東京駅丸の内口。いつも大勢の人々で行き交う繁華街やオフィス街だが、中野の作品を見ると、すぐさま異変に気づく。そう、誰も人がいないのだ。1990年代、バブル崩壊を目の当たりにした中野は、世紀末を前に、新しい時代の東京を考えるきっかけにしようと、無人の街をテーマにした『TOKYO  NOBODY』を撮影。同時に、水上から都市が島のように浮いて見える『TOKYO FLOAT』や、ビルや民家の窓から外の景色を眺めた『東京窓景』などによって、日々、移りゆく東京の姿を独自の視点でカメラに収めてきた。そこには知っているようで一度も見たことがない、パラレルワールドのような東京の断面が表現されている。

4mを超える巨大なプリントなど、床から天井にまで広がる約100点の作品を前にすると、東京の圧倒的なダイナミズムに打ちのめされる。だが、より注意したいのは、街に潜んだディテールだ。たとえ無人であっても、たとえば集積所からゴミがあふれていたり、事故でガードレールがぐにゃぐにゃに歪んでいたり、人の存在の痕跡が確かに感じられるからだ。特に『東京刹那』では、路地の隙間から覗き込むようにして、日常の何気ない人々のドラマを捉えている。東京の主役はビルでも道路でもなく、無数にひしめき合う人間なのだ。

中野は東京に愛着心こそ抱きながらも、現在の目まぐるしい変化について、肯定すべきか否定すべきか判断をしかねていると言い、未だ実体が掴めない「予測不可能都市」と定義している。混沌とした東京の未来は、どこへ向かうのだろうか。

『Ginza,Chuo-ku,1996』 無人の東京をテーマとした『TOKYO NOBODY』のうちの一枚。加工はしていない。誰もいない銀座は、もはやシュールな様相を呈する。©Masataka Nakano

『Azumabashi,Sumida-ku,2003』 『東京窓景』シリーズから。吾妻橋のほとりにある「フラムドール」を窓の外に見た作品。布団を敷いた生活感のある室内と、宇宙船のようなオブジェの対比が面白い。©Masataka Nakano

『Nihonbashi,Chuo-ku,2007』 『TOKYO FLOAT』から。首都高の下に架かる日本橋を川から見上げて写している。中野は川を都市の「動脈」になぞらえ、川の高さに視点を置いて写すことを「検査」と表現している。©Masataka Nakano

『東京刹那』シリーズ。45点もの作品を、1つの壁面にパズルのように並べて展示。都市のダイナミックな景観だけでなく、街角で行き交う人々を生き生きと写しているのが中野の作品の魅力だ。photo: Harold

『中野正貴写真展 東京』

開催期間:2019年11月23日(土・祝)~2020年1月26日(日)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時(木、金は20時まで。但し1月2日・3日は18時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌火曜)、年末年始(12月29日〜1月1日)
入場料:一般¥1,000(税込)
https://topmuseum.jp