作家の故郷・徳之島の青い海に想いを馳せる、『宮本隆司 いまだ見えざると...

作家の故郷・徳之島の青い海に想いを馳せる、『宮本隆司 いまだ見えざるところ』。

文:はろるど

『面縄ピンホール 2013』2013年 発色現像方式印画 東京都写真美術館蔵 上下に反転し、箱の展開図のように広がる徳之島の海辺。宮本のシルエットが写り込んでいます。

1980年代から、建築の解体過程を写した作品群で高く評価されてきた宮本隆司。2014年には奄美群島・徳之島のアートプロジェクトのディレクターに就任し、島の集落で暮らす人々のポートレートや祭りなどをカメラに収めました。

東京都写真美術館で開催中の『宮本隆司 いまだ見えざるところ』では、その徳之島を舞台にしたシリーズ「シマというところ」を40点以上展示。宮本のファインダーを通して、青い空や海などの自然や、先祖に収穫を感謝するために行われる「夏目踊り」、死者の骨を水で洗って埋葬する「洗骨」など、島に残る独自の風習が見られます。

実は宮本は、徳之島と古い所縁があります。この島は両親の出身地で、宮本自身も2歳まで島に住んでいたものの、記憶は残っていません。彼はかつて暮らしていた海辺近くに自作のピンホールカメラを設置し、中に潜り込んで海を撮影していました。すると、「幼き頃に波打ち際で海に浸かった記憶が蘇るようだ」と思ったといいます。徳之島での撮影は、自らのルーツでもあり、見ていたはずなのに覚えていない光景、「いまだ見えざるところ」を引き寄せる機会となったのです。

この他には、代表シリーズである「建築の黙示録」や、標高3700mを超えるネパールの城砦都市を旅した「Lo Manthang(ロー・マンタン)1996」、またホーチミンや台北に取材した「東方の市(とうほうのまち)」なども展示されています。これらはすべて、アジアを写した写真であるのが特徴です。

大きく葉を揺らすサトウキビの写真を見ていると、徳之島に吹く海風や潮の匂いが感じられそうです。なお「シマというところ」では、美大生の頃、まだ21歳の宮本が徳之島で撮った3枚の写真も混在しています。約半世紀の時を超え、新たに撮った「シマ」を目の前にしながら、人の記憶について考えたいものです。

『面縄 Omonawa』「シマというところ」より 2010年 インクジェット・プリント 東京都写真美術館蔵 にこやかな笑みを浮かべる老夫婦の姿が印象的。ポートレートは島の集落別に展示されています。

「シマというところ」をはじめとする徳之島の写真が展示されています。奄美群島で「シマ」とは単に島全体を指すのではなく、集落ごとの小さな共同体を意味します。

『Can Tho』「東方の市」より  1992年 ゼラチンシルバー・プリント 東京都写真美術館蔵 『建築の黙示録』と同時期に撮影されたシリーズ。アジアの街を中心に、沖縄や徳之島など日本の島も写されています。1992年の個展以来、27年ぶりに公開されました。

『宮本隆司 いまだ見えざるところ』

開催期間:2019年5月14日(火)~7月15日(月・祝)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時(木曜、金曜は20時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(7月15日は開館)
入場料:一般¥700(税込)
https://topmuseum.jp

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