朝鮮半島の非武装地帯の平和を考える、原美術館『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』展。

  • 文:はろるど

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崔在銀『hatred melts like snow』2019年 朝鮮半島の非武装地帯に敷設された鉄条網を鋳潰(いつぶ)し、鉄の飛び石に変えたインスタレーション。作品ならば自由に上を行き来できます。写真:武藤滋生

1953年の朝鮮戦争の休戦後、北緯38度線から南北2㎞に渡って設置された「非武装地帯(DMZ)」。鉄条網で何重にも覆われたエリアは約300万個と言われる地雷が敷設され、一切立ち入ることができません。しかし、約65年間も無人だったことから、ここはいまや106種の絶滅危惧種を含め5057種の生物を育む自然の王国と化しています。

この非武装地帯は今後どうなるのか? 自然をどのように守ればいいのでしょう? ソウル出身のアーティスト、崔在銀(チェ・ジェウン)は、2014年よりアートの観点で生き物の共生を考える「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」をスタート。人ではなく自然が土地を治める「自然国家」を目標に掲げました。今回の展覧会では、崔の思想に共鳴した20人の美術家や建築家が、具体的な方法を提案します。

スケールは驚くほど壮大です。建築家の坂茂は、非武装地帯に全長20㎞もの空中庭園を構想。他にも、トンネルを利用した植物の種子を保存するためのシードバンクや、鳥が羽を休めるための塔など、どれも斬新なアイデアです。

一方で、地雷の撤去など、危険な事態は揺るぎない事実としてあります。そこで崔は語ります。「いますぐに実現するのではなく、人々は朝鮮半島の非武装地帯の生態系についてもっと考えなくてはいけない。そしてなによりも、南北の境界線を溶かさなければならない」と。実際に軍事境界線の鉄条網を溶かして制作した彼女の作品『hatred melts like snow』の鉄の板の上を歩くと、崔の熱意がひしひしと感じられます。自然を尊重し、平和を希求するメッセージを受け止めつつ、南北に分断された38度線の未来について考えたい展覧会です。

中央:崔在銀『To Call by Name』2019年 鏡の上に置いたセラミックには、101種の絶滅危惧種の名前が記されています。また作品の上には小瓶が吊るされていて、中に入れた小豆が芽を吹いています。それを崔は展覧会を象徴する「生命」だと語りました。写真:武藤滋生

承孝相(スン・ヒョサン)『鳥の修道院』2017年 朝鮮半島非武装地帯にはタカやツル、キツツキなど多くの鳥が飛来します。承は鳥の鳴き声が南北の悲しい歴史を嘆く人の声に重なって聴こえたとして、祈りの場の修道院を構想しました。写真:武藤滋生

坂茂『竹のパサージュ』2019年 空中庭園のためのパサージュの1/2スケール。自然に馴染むように竹でつくられています。坂はパサージュを地面から離すことで、人の自然への介入を防ぐとともに、地雷から人を守ることができると考えました。写真:武藤滋生

『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project』


開催期間:2019年4月13日(土)~7月28日(日)
開催場所:原美術館
東京都品川区北品川4-7-25
TEL:03-3445-0651
開館時間:11時~17時(祝日を除く水曜は20時まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
入場料:一般¥1,100(税込)
www.haramuseum.or.jp