異様な光景に度肝を抜かれる、アーティスト・西野達の10年ぶりの個展という“事件”。

  • 文:はろるど

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2015年から今年までに制作された西野の作品約10点が展示されている。身の回りの品を素材としているのも特徴のひとつ。photo: Keizo Kioku

ベルリンと東京を拠点に活躍するアーティスト・西野達は、おもに都市の屋外で、パブリックなモニュメントを囲い入れた仮想の部屋を築く作品で知られている。2011年にはシンガポールのマーライオンを取り込んだホテルを建設するなど、誰もがあっと驚くプロジェクトを展開してきた。

その西野が屋外から一転、室内での展示に挑んだのが、東京・東品川のギャラリー、ANOMALY(アノマリー)で開催中の『西野達個展 やめられない習慣の本当の理由とその対処法』だ。通常、ギャラリー空間には存在しない巨木や自動車、それに家具や家電を持ち込み、本来的な用途を無視したオブジェが築き上げられていて、そのシュールな光景に目を丸くしてしまう。中でも個展のタイトルでもある作品『やめられない習慣の本当の理由とその対処法』は圧巻。ボンネットとトランクが切断された自動車の屋根の上には冷蔵庫と家具が積まれ、てっぺんにはさらにベットとソファが載せられている。さらに全てを一本の柱、つまり煌々と明かりを放つ街灯がグサリと突き刺しているのだ。しかも倒れそうで倒れず、絶妙なバランスが不思議でならない。

ヤマモモやサザンカを素材にした『達仏』は、自然の立木に仏像を直に彫り込んでいる。時間とともに木が成長することから、今後どのように仏像が変化するのか予測がつかない。西野は、芸術に関心をもっていない人々にアートの可能性を問いたいと語っている。既知の素材を組み合わせながらまったく未知のスケールと質感を生み出す作品には、一目で心を強く捉える魅力が確かに感じられる。

日常的な場を重視し、美術館などではなく市街地で作品を見せることにこだわってきた西野は、過去にギャラリーで3回しか展示を行っておらず、今回の個展は実に10年ぶりとなる。ホワイトキューブにあるまじきモノを闖入させ、前代未聞の空間を築き上げた「事件」を、ANOMALYで目撃してほしい。

『やめられない習慣の本当の理由とその対処法』2020年 街灯で串刺しされたように見える車や冷蔵庫。車は鋭利に切り取られ、まるで事故にあったかのよう。大変な力業だ。photo: Keizo Kioku

家具の上にのったベットとソファを下から見上げて。家具の中には美術展のカタログが積まれ、ベットには布団が掛けられている。屋外にある無機的な街灯と生活感のある家具との対比が奇妙だ。photo: Harold

『達仏-仏陀は生きている(九尊仏) 』2020年 葉を生い茂らせ、一部には花も残すサザンカの樹。幹や枝の先端部に観音などの仏像を彫っている。photo: Ichiro Mishima

『The Life’s Little Worries of Général Mellinet』2015年 フランスのナントの広場で撮影された写真作品。この他、銀座のメゾンエルメスの屋上の騎馬像「花火師」を部屋で囲った『天上のシェリー』(2006年)や、マンハッタンのコロンブス像の周辺をリビングにした『Discovering Columbus』(2012年)なども大いに話題を集めた。

『西野達個展 やめられない習慣の本当の理由とその対処法』

開催期間:2020年1月25日(土)~2月22日(土)
開催場所:ANOMALY
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
TEL:03-6433-2988
開館時間:11時~18時 ※毎週金曜は20時まで
休館日:日・月・祝
入場無料
http://anomalytokyo.com