ヨーゼフ・ボイスから森山未來まで。アーティストの心を浮き彫りにする写真...

ヨーゼフ・ボイスから森山未來まで。アーティストの心を浮き彫りにする写真展『田原桂一 表現者たち-白の美術館-』へ

写真&文:はろるど

ドイツの美術家で社会活動家でもあったヨーゼフ・ボイスの晩年の姿を正面から写している。物静かな様子ながら、行手を阻むような迫力のある写真だ。(撮影年:1981年) 

長らくパリを拠点に活動し、光をテーマに写真、彫刻、インスタレーションなどで幅広く活躍した田原桂一。「写真はその人の姿だけでなく心の中をも切り取る」との言葉を残す田原は、これまでに国内外の多くの人物のポートレートを撮影してきた。

東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスで開催中の『田原桂一 表現者たち–白の美術館–』では、1978年から約10年間に渡り世界的なアーティストを写した『ポートレート』シリーズに加えて、近年になって手掛けたテレビ番組『白の美術館』の出演者の写真を展示している。時代こそ異なりながら、いずれもモデルの内面を浮き彫りにするような作品ばかりで、瞳の奥に潜む光に吸い込まれてしまいそうになる。 


過去から現在、薄暗がりから明るく白い空間へと続くドラマテックな展開も見どころだ。まずはじめに並ぶのが、画家のアンドレ・マッソンやアーティストのクリスチャン・ボルタンスキーなどを捉えた『ポートレート』だ。錚々たる巨匠ばかりの写真に圧倒されつつ、カーテンを潜り抜けると今度は『白の美術館』へと移る。ここでは小松美羽や森山未來といった、いまを時めくアーティストや俳優たちのポートレートが展示されているのだ。田原は2020年3月まで放送されたテレビ朝日の番組『白の美術館』の企画段階から携わると、放送開始後に出演した歌手やデザイナー、それに作家といった表現者と呼ばれる人々のポートレート撮影を担当した。そして単にポーズを構える姿でなく、例えば楽器を演奏しようとする光景であったり、目や耳といった身体の一部分を美しく切り取るように写すなどして、被写体へと肉薄している。

一連のポートレートを見て思い出すのが「トルソー」だ。ルーヴル美術館などが所蔵する古い人物彫刻を撮影し、石板やガラスに焼き付けたシリーズで、田原の代表作として人気が高い。そして今回は自らの横顔を石に写した『self portrait』を展示している。田原は表現者について、 スペインのミゲル・デ・セルバンテスが生み出し、自らを信じながら夢と希望を胸に旅を続けたドン・キホーテになぞらえた。毅然とした面持ちで視線を上げ、未来を見据えるような姿を目にすると、それは田原本人を指しているとも思えて胸が熱くなるのだ。 

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