この週末はクロージングで盛り上がる「札幌国際芸術祭2017」へ! 注目作家クリスチャン・マークレーのインタビューと必見展示をご紹介します。

  • 写真・文・山田泰巨

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芸術の森 美術館の会場に立つクリスチャン・マークレー。

札幌の短い夏を駆け抜けた「札幌国際芸術祭2017」がいよいよ今週末でクロージングを迎えます。2014年に続く2度目の芸術祭は、ゲストディレクターに大友良英さんを迎えました。

NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の楽曲で知られる大友さんですが、音楽愛好家のあいだでは古くからよく知られた存在です。前衛音楽、ノイズミュージック、フリージャズと非常に多岐にわたる音楽表現で、数多くのユニットやバンドを主宰、または参加してきました。近年は優れたサウンド・インスタレーションでも知られ、ボーダーレスな活動を行ってきた大友さんは今回、まず札幌の人々と一緒に芸術祭をつくりたいと考えたそうです。

「芸術祭ってなんだ?—ガラクタの星座たち—」をテーマに掲げた市民参加型の芸術祭は、音楽もまたひとつのキーワード。さまざまなタイプの作家を招聘していますが、なかでも大友さんが全幅の信頼を寄せる作家が現代音楽家としても知られるクリスチャン・マークレーです。「札幌芸術の森 美術館」では、彼の複数の作品を鑑賞することができます。

こちらのPCのモニター内では、同機種のPCが分解される映像が流れ続けます。どこか人間のエゴイズムを感じずにはいられません。

こちらも同じテーマのラップトップ型作品。

「以前にも札幌には訪れているけれど、まだクマに出会ったことはないんだ」

作品設置で札幌を訪れたマークレーは、冗談を交えながら気さくに話を始めてくれました。2011年に映像作品『クロック』で第54回ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞を受賞するなど現代美術作家として高い評価を集めるマークレー。時計が写っている映画の一部をコラージュして繋ぎ合わせた24時間におよぶこの作品は、映像が現実の時間に対応する大作です。そんなマークレーは今回の展示を「ビューティー・アンド・トラッシュがテーマと言えるかな」と語ります。

「今回は大友さんから芸術祭のサブテーマ(ガラクタの星座たち)を聞き、リサイクルをテーマにした作品で構成することにしました。大友さんがリサイクルに強い関心をもっていることは知っていたし、私にとっても長年の関心事です。ゴミに美があるというのはとても面白いことだと思いませんか? たとえば私が今回展示する作品のひとつに、古いコンピューターのモニターに映像を流しているものがあります。これは映像を流すコンピューターと同機種のものを解体し、レアメタルを回収する作業を映しています。ガラクタになったコンピューターから宝物を取り出す作業で、ここでガラクタはゴールドマイン=金脈になる。無価値とされたものから再び価値のあるものを探し出すなんて、まさに宝探し。ゴミはここで鉱脈よりももっと豊かな金脈となるのです」

コピーを何度も重ねて反復によってイメージをつくったというドローイングの意味を問う絵画的作品。

初来日時のフライヤーをはじめ、日本で行ったライブ映像なども楽しめる。

今回は日本で初めて展示する作品がいくつかあると、マークレーは言います。そして、リサイクルというテーマとは別にマークレーがこれまで日本と関わってきた個人的な歴史を俯瞰する展示といえるかもしれないと続けます。

「私が初めて大友さんに出会ったのは、1986年の初来日時。ここでも展示されていますが、日本で発売された私のレコードを大友さんが購入し、私を招聘してくれたのです(なおレコードは大友さんの個人蔵)。そのレコードは、レコードにカバーをつけずに剥き身のままに流通させた作品です。流通の過程で刻まれた傷によってそれぞれのレコードが完成する。どれひとつとして同じ音は鳴りません。この考えに大友さんは強い共感をもってくれ、ずいぶん仲良くなりました。お互い若かったので朝まで飲み歩き、気がつけば彼の家で目を覚ましたんです(笑)。レコードは当時、すでに過去のものとなっていました。そこから音楽を再びつくりだすというのも、ひとつのリサイクルの考え方です。ですから大友さんが今回掲げたテーマは私にとって非常に馴染みがあるものでした。私のレコードのなかに彼が今回の芸術祭が掲げるテーマの萌芽をみつけていたのだとすると、とても面白いことですよね」

こちらが大友さんが所有する、マークレーの初期のレコード作品。この状態で流通されたといいます。

「最も古い作品は1982年に制作した、私がレコードを食べるという映像作品。昨年まで制作していた映像作品もロンドンの路上に落ちているゴミを映像として採取し、それをつなぎ合わせたものです。もちろんこれらは私の作品のすべてを表現するものではないし、芸術祭のテーマに沿って揃えたものです。ただし表現は多岐にわたるよう、音楽、映像、写真など多様なメディアを選びました。日本とのつながりといえば、10年以上前に羽田空港近くの工場で短期間だけ行った展示の作品もあります。不便で辺鄙な場所だったからあまり人がこなくて、見たことのある人は非常に少ないでしょう。とてもいい場所で、いい展示だったんだけど(笑)」

マークレーと大友さんをつないだのはアートではなく音楽。なぜ芸術祭なのに音楽活動を中心に行う大友さんがアートディレクターなのだろうという疑問もあるかもしれません。いまだ多くの人にとって両者は近しい存在と考えられていません。音楽とアート表現を続けてきたマークレーにとって、両者の関係性はどのようなものなのでしょうか。

「音楽とアートの世界は別のものとして分離しています。私は、音楽表現はもっと勇気をもってアートにトライすべきだと思っている。今回の芸術祭では乖離しているふたつをつなげようという大友さんの勇気ある行動、そしてそれをバックアップする札幌市の勇気も称えたい。芸術祭で大友さんは領域をクロスオーバーしていますね。私自身もよくアートなのか音楽なのか立ち位置を尋ねられるけれど、私にとって音楽はアートであって、アートもまた音楽なんです。わざわざ分けて考える必要はないのではないでしょうか」

市街地から郊外のアートスペースへ、作品とともに街を楽しみ尽くす。

ガラスのピラミッドでは、大友良英さん、青山泰知さん、伊藤隆之さんの『(with)without records』、松井紫朗さんのバルーン作品『climbing time / falling time』などが展示されます。

さて、芸術祭で見逃せない作品を紹介していきましょう。札幌市民に愛されるモエレ沼公園も大きな会場のひとつ。ここでは今回の芸術祭でディレクターを務める大友良英さんの作品をはじめ、数名の作家の作品が設置されています。

大友さんは、ガラスのピラミッドに代表作『(with)without records』を設置。ゴミ処理場を再生して生まれた公園を舞台に、同じく一度人々の手を離れたレコードプレイヤーが「再生」されるインスタレーションは本芸術祭の掲げるテーマを最も端的に伝えてくれるものでした。また同じくガラスのピラミッドではナムジュン・パイクのガラクタでできたロボット型の作品とともに、札幌生まれの美術作家・伊藤隆介さんが『メカニカル・モンスターズ』を設置。これはロボット掃除機と合体した剥製の狸が会場内を走り回るというもの。また屋外では同じく伊藤さんの『長征−すべての山に登れ』と題した廃自転車を用いた作品が配置されています。自転車では登ることのできない急な傾斜の山に設置された自転車の姿はユーモラスであり、シニカルでもあります。

いまにも壊れそうなナムジュン・パイクの『K-567』は人間の役に立つという命題を失い、逆に人間が世話をしたくなる存在に。その傍を『メカニカル・モンスターズ』が掃除を続けるというシュールな光景が広がります。

公園内にあるモエレ山に設置された『長征−すべての山に登れ』。息がきれるほどに急な山を登りきるとイサム・ノグチの思い描いたランドスケープを俯瞰することもでき、ぜひ体感してもらいたい作品のひとつ。

今回、大友さんがディレクターを引き受けた時に思い浮かべた作家が3名いるといいます。それが毛利悠子さん、梅田哲也さん、堀尾寛太さんの3名。音を使う彼らの作品は、大友さん自身に常々刺激を与えてきたといい、彼らに声をかけるところから芸術祭が始まったと大友さんは振り返ります。

9月にフランスで「リヨン・ビエンナーレ2017」、その後に同じくフランスのポンピドゥー・センター・メスでの展覧会に参加する毛利さんは、いまもっとも国際的に活躍する日本の若手作家の一人と言えるでしょう。彼女は建築家・清家清が設計した札幌市立大学の空中廊下「スカイウェイ」を使い、『そよぎ またはエコー』を展示。これは古いピアノや札幌市内で使われていた古い電灯、夕張で使われていたという碍子(電線とその支持物とのあいだを絶縁するために用いる器具)などを使う音を奏でる作品です。

隣接する芸術の森野外美術館に設置されている北海道の彫刻家、砂澤ビッキの『四つの風』に添えられた詩にオマージュを捧げたもので、ノルウェーの現代芸術家、カミーユ・ノーメントによるポエトリーディング、さらに坂本龍一さんの曲が会場に流れます。長大な廊下のため、立つ位置によって廊下のさまざまな位置に仕掛けられた音響装置で奏でられる音は混じり合いに誤差ができます。立つ位置によって同じフレーズでも音像が異なるというユニークな作品なのです。

毛利悠子さんの『そよぎ またはエコー』は、北海道の彫刻家、砂澤ビッキの作品にインスパイアされたもの。隣接する芸術の森に屋外設置される作品に添えられた詩を使い、音楽を用いた美しいインスタレーションを発表。

堀尾寛太さんの『テレグラフ』は藻岩山山頂に設置された作品。山頂はもちろんのこと、市街地から山を眺め、時折光る山の稜線を楽しむのもおすすめ。

金市舘ビルのワンフロアを使う梅田哲也さんのインスタレーション作品『わからないものたち』は、自ら作品を切り開いていくような体験ができます。

堀尾寛太さんはすすきので使われずにいたビルを用いて『補間』を発表。長らくインフラの絶たれた建物が会期中のみわずかに蘇ります。さらに壮大なのが、札幌市民には馴染み深い藻岩山に設置した作品『テレグラフ』。山頂に設置された光を発する作品は山頂で間近から見るもよし、街中の至るところから確認するのもよいという作品です。豊平川のほとりから、市電の窓から、あるいは自宅から眺めることもできるかもしれません。

梅田哲也さんは1970年代にデパートとして建てられたという金市舘ビルのワンフロアを使い、さまざまな物体が相互に影響しあうインスタレーション作品『わからないものたち』を発表します。ここでは鑑賞者も作品のひとつと言えるでしょう。私たちが空間に足を踏み入れることで作品は変化し、音や光を奏でます。また都心部から少し離れた住宅街にある、かつてりんごの倉庫として使われていた札幌軟石の蔵を舞台にインスタレーションも行っています。こちらは夕方から夜にかけてのみ公開されるもの。すすきのの会場をはじめ、一部会場は午後から、または夕方からなどというのもユニークな仕掛け。街を体感しながら巡る芸術祭というのもユニークな試みといえるでしょう。

端聡さんの作品『液体は熱エネルギーにより気体となり、冷えて液体に戻る。そうあるべきだ。2017』は照明器具に落ちた水滴が熱をもった照明にあたり蒸気へと気化するというもの。現代社会のさまざまなシステムに疑問を投げかけます。

札幌大通地下ギャラリー500m美術館では、1972年に開催された冬季オリンピックにまつわるさまざまなグラフィックツールを展示。オリンピック招聘時から実際の開催時のツールなど、さまざまなグラフィックアイテムに目を奪われます。

北海道大学総合博物館で行われている吉増剛造さんの展示『火ノ刺繍−「石狩シーツ」の先へ』。吉増さんの貴重な草稿などを見ることができます。

また、札幌にゆかりの多い作家たちも多く出展しています。昨年のあいちトリエンナーレ2016に出展されて話題を呼んだ端聡さんは札幌在住の作家。あいちトリエンナーレの作品が『Intention and substance』とアップデートされて出展されました。循環システムを再考させる作品を歓楽街すすきので展開します。同じビルでは札幌の私設博物館やコラージュ空間で有名な居酒屋のサテライトも出展されています。

またグラフィックの展示も行われています。地下鉄コンコースを用いた札幌大通地下ギャラリー500m美術館では1972年の札幌五輪のグラフィックツールなどを見ることができます。札幌駅直結のJRタワープラニスホールでは「札幌デザイン開拓使」と題し、開拓時代から初音ミク、そして札幌を拠点に全国区で活躍するグラフィックデザイナーたちの仕事をみることができます。北海道大学総合博物館で展示される詩人・吉増剛造さんの展示も見逃すことができません。吉増さんの代表作である『石狩シーツ』の草稿、そしてあらためて石狩川河川敷で作品を読む吉増さんの映像が心を奪います。

最後に私的な話ですが、私は札幌で生まれ、学生を終えるまでこの街で育ちました。これまで各地で芸術祭を取材してきましたが、自分の生まれ育った街で開催されているのを見て、地域に根ざした芸術祭のかたちがようやく理解できたように思います。作品の背景に潜む地域色、歴史や文化。取材で聞いて知るのと、肌感覚で理解をするのはやはり違うようです。残りわずかですが、ぜひ札幌で暮らす人たち、そして札幌を離れてしまったゆかりのある人たちにこそ見てもらいたい芸術祭です。雪の降る街、開拓という歴史を背景にもつ街、音楽が身近にある街。人によってさまざまな顔をもつこの街を作家たちはどう読み解いていったのか。ぜひその目で確かめてください。

札幌国際芸術祭2017
開催期間:2017年8月6日(日)〜10月1日(日)
開催場所:モエレ沼公園、札幌芸術の森、金市舘ビル、北専プラザ佐野ビル、AGS6・3ビル、北海道教育大学アーツ&スポーツ文化複合施設HUG、札幌大通地下ギャラリー500m美術館、札幌市資料館、SIAF2017オフィシャルバーOYOYOほか
入場料:一般¥2,200 札幌市民・北海道民¥1,800 高校・大学生¥800
http://siaf.jp


◆9月30日(土)
【クロージングイベント】SIAF2017クロージングイベント
モエレ沼公園 音楽&アート解放区〜大風呂敷を、広げて、たたんで Music & Art Set Free in Moerenuma Park
日時:9月30日(土) 10時~19時【雨天の場合は10月1日(日)に延期】
会場:モエレ沼公園 芝生広場(ガラスのピラミッド横・札幌市東区モエレ沼公園1-1)
ゲスト:大友良英、音遊びの会、立花泰彦、テニスコーツ、長見順、パーカパッションアンサンブル他公募によるアーティスト、パフォーマー、オーケストラSAPPORO 2017 final!
参加無料(ただしガラスのピラミッド内の芸術祭展示室の入場にはSIAFパスポートもしくは個別鑑賞券が必要)

【トーク】梅田哲也オールナイトトーク「生きているのに走馬灯」
日時:9月30日(土)24時頃〜翌6時頃
予定会場:りんご(札幌市豊平区中の島1条3丁目8-19)隣
料金:¥1,000(ホットドリンク付き)/SIAF2017パスポート提示で¥500
出演:梅田 哲也/雨宮 庸介 ほか
申込・購入方法:当日直接会場へ


 ◆10月1日(日)

【トーク】クワクボリョウタ アーティスト・トーク
時間:14時〜
会場:円山動物園 動物園センター情報ホール(札幌市中央区宮ヶ丘3-1)
定員:25人 ※予約不要・当日先着
料金:無料(円山動物園への入園チケットもしくはSIAFパスポートが必要)

【ワークショップ】コタンペップロジェクト ひろがれコタンワークショップ #03
日時:10月1日(日)10時〜
会場:円山公園(札幌市中央区宮ヶ丘)
定員:先着20人 (当日9時45分から円山公園パークセンターで受付)
料金:無料

【サウンド・インスタレーション】ドット・リーム|DOT LEEM
日時:10月1日(日)12時~13時 14時~15時 16時~17時 18時~19時(同日は札幌芸術の森美術館も19時まで開館予定。ただし前日9月30日(土)の工芸館の展示は準備のため13時でクローズ)
会場:札幌芸術の森 工芸館
料金:無料