江戸川乱歩や横溝正史らを輩出した“伝説の雑誌”『新青年』の企画展がスタート。

  • 文:一ノ瀬 伸

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昭和モダニズム全盛期、1933年10月号の『新青年』。表紙画は松野一夫。(県立神奈川近代文学館 蔵)©︎Nagako Iwai 2020/JAA2000271

江戸川乱歩や横溝正史ら、歴史に名を残す数々の探偵小説作家を輩出した『新青年』。ミステリーのみならず、最先端のファッションやスポーツなど幅広い話題を魅力的に取り上げ、昭和モダンの時代を牽引した雑誌は今なお「伝説」として語り継がれている。

1920(大正9)年の創刊から1世紀を超え、『新青年』の軌跡を紹介する展覧会が3月20日(土)、県立神奈川近代文学館で始まった。同館は1920〜50(昭和25)年に発行された全400冊を所蔵する希少な施設。長年の収集によって揃えた同誌を活用し、その功績を振り返る。

『新青年』は錚々たる作家たちのデビューの場となり、傑作を世に送り出した。江戸川乱歩が「名探偵・明智小五郎」を初めて登場させた『D坂の殺人事件』、小栗虫太郎の長編で日本探偵小説の「三大奇書」のひとつに数えられる『黒死館殺人事件』、横溝正史による「金田一耕助シリーズ」のひとつ『八つ墓村』など例を挙げればキリがない。同館広報担当の野見山陽子さんは、その偉業をこう称える。

「すでに有名な作家を起用するのではなく、投稿などから才能ある新人を発掘したという点に大きな価値があります。日本の探偵小説の歴史そのものと言っても過言ではない雑誌です」

小栗虫太郎が『新青年』に連載した『黒死館殺人事件』の原稿。(世田谷文学館 蔵)

『新青年』第4回に掲載された竹中英太郎の挿絵の原画「江川蘭子」。(湯村の杜竹中英太郎記念館 蔵)

ただ、『新青年』は探偵小説の専門誌ではない。創刊当初、農村部に住む若者を啓発する方向性だったというが、初代編集長の森下雨村や2代目の横溝正史ら歴代の敏腕編集者によって、探偵小説のほか国内外のファッションやカルチャー、スポーツの流行が紹介され、「モボ・モガ」(モダンボーイ・モダンガール)を大いに惹きつける内容になっていった。「日本のカルチャー雑誌の原型と言われることもあります」と野見山さんは説明する。

展示は創刊から時代ごと構成される。誌上に掲載された連載や企画記事を紹介しながら、江戸川乱歩ら著名作家の登場や、関東大震災後の文化・ライフスタイルの変容、六大学野球の盛り上がりなど、重要なトピックについて詳しく解説。資料は雑誌に加え、探偵小説作品の草稿、竹中英太郎や松野一夫らによる雑誌挿絵の原画、「モボ・モガ」スタイルの衣装などが多彩に並ぶ。同館展示担当の齋藤泰子さんは『新青年』の普遍的な魅力を語り、本展示の楽しみ方をこう提案する。

「ハイセンスでハイカラな雑誌と言える『新青年』ですが、今の私たちが読んでも共感できる部分が多いです。一例ですが、『ヴォカンヴォグ』という誌上のファッションコラムでは『おしゃれは人の真似ではダメで、自分で咀嚼する必要がある』といった趣旨の記述があり、『あ、そうだよね』と感じました。廃刊後も語り継がれる背景に、現代にも脈々と続く“精神”のようなものがあると思います。展示の中からなにか共感や発見をしてもらえたらうれしいです」

『創刊101年記念 永遠に「新青年」なるもの ――ミステリー・ファッション・スポーツ――』

開催期間:2021年3月20日(土)~5月16日(日)
開催場所:県立神奈川近代文学館 横浜市中区山手町110
TEL:045-622-6666
開館時間:9:30~17:00 ※展示室の開館時間。入館は閉館30分前まで。
休館日:月曜
入場料:一般¥700、65歳以上・20歳未満・学生¥350、高校生¥100、中学生以下無料
※オンラインでの日時指定予約制。当日予約は電話で問合せ。
関連イベント:4月17日(土)江戸川乱歩『押絵と旅する男』朗読会(出演・佐野史郎)など。詳細はHPで。