対照的なアプローチで「性」を捉えた、銀座シャネルの『ピエール セルネ & 春画』展。

  • 文:はろるど

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『ピエール セルネ & 春画』展示風景。会場に設けられた丸窓の向こうに、ピエール・セルネの写真と春画が見えます。鑑賞者はあたかも覗き見をしているかのような、不思議な感覚に陥ります。©CHANEL NEXUS HALL

フランスの現代写真と日本の春画とで織り成された異色の展覧会が、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催中です。

写真の丸窓の先に目を向けて下さい。一方はフランスの写真家、ピエール・セルネによる、個人やカップルの官能的な姿や性行為を撮った写真です。しかし、身体のシルエットの一部を切り取っているため、1人なのか2人なのか、性別さえもわかりません。まるでモノクロの抽象画のようで、唯一の手がかりは『Kaitlin』『Jose & Luis』といった、作品タイトルに表わされる被写体の人物名のみです。もう一方は、江戸時代の春画です。いずれも浦上蒼穹堂・浦上満のコレクションで、鈴木春信、喜多川歌麿、葛飾北斎らといった名だたる絵師の優品ばかり。特に鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)の肉筆である『源氏物語春画巻』の彩色は輝き、200年以上前の作品とは思えぬほど艶やかです。

両者に共通するのは「性」です。世界中の人々の相違点と類似点を探求するセルネは、人間に共通する特性として、性と性行為があるとしています。そして「笑い絵」とも呼ばれ、広く愛された春画も、普遍的な性の悦びを表したもの。セルネは自らの作品を、春画の「シニノム(同義語)」と呼んでいます。ここに、性を生々しく誇張して描いた春画と、見る者の想像力に委ね、暗示するように写したセルネの作品との関係がパラレルに示されます。

近年、再注目されている春画は、2013年にロンドンの大英博物館で開催された『春画:日本 美術における性のたのしみ』が大きな反響を呼び、日本の永青文庫での『春画展』(2015年)でも、21万人の入場者を記録しました。今回はそこからさらに一歩進み、異なる方法で「性」を表現した現代写真を並列させています。この試みを、シャネル合同会社会長のリシャール・コラスは、「ココ・シャネルも、きっと面白いと気に入るはず」と語りました。対照的なアプローチで捉えた「性」のアートを、ぜひ楽しんでみてください。


ピエール セルネ『Kaitlin & John』2015年 セルネの『Synonyms (同義語) 』シリーズのひとつ。男女なのか同性なのか、はたまたひとりなのか、作品のタイトルにある被写体の名前でしか判断することができません。セルネはかつてニューヨークのメトロポリタン美術館で見た、19世紀の日本の影のような肖像画に触発されて作品を制作したと言います。写真でありながら、まるで版画のような質感も目を引きます。©SP2X

鳥文斎栄之『源氏物語春画巻』(部分) 1789年〜1801年頃 浦上満氏蔵 烏帽子を被った公家の男が、町人や武家、遊女などの女と交わる姿を描いた全十二図の春画絵巻。各図に『源氏物語』の巻名と各帖の主題の絵があることから、公家の男は光源氏を投影しているとわかります。

スタイリッシュな展示空間では、春画とセルネの作品群が交互に展示されています。©CHANEL NEXUS HALL

『ピエールセルネ & 春画』

開催期間:2019年3月13日(水)~4月7日(日)
開催場所:シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
TEL:03-3779-4001
開館時間:12時~19時30分
休館日:3月28日(木)
入場無料
※会期中展示替えあり、前期:3月13日(水)~3月27日(水) 後期:3月29日(金)~4月7日(日)
https://chanelnexushall.jp/program/2019/shunga