日本画壇に旋風を起こした迫力を体感して! 「没後50年記念 川端龍子―...

日本画壇に旋風を起こした迫力を体感して! 「没後50年記念 川端龍子―超ド級の日本画―」展。

文:坂本 裕子

国立近代美術館蔵の『草炎』の人気が高く、翌年に同主題で描かれた作品。黒に近い紺を背景に金銀泥の濃淡で描かれる草花は奥行きと怖いほどの静寂をたたえています。 川端龍子 『草の実』 1931(昭和6)年 絹本・彩色 大田区立龍子記念館

東京・山種美術館では、没後50年を記念して、日本画家・川端龍子(かわばたりゅうし)の特別展が開催されています。

明治末から戦後昭和にかけて、大胆な発想と構図、規格外の大画面制作など、従来の枠組みを壊して新しい日本画のあり方への挑戦をつづけたこの風雲児は、当時「昭和の狩野永徳」とも評されて、日本画壇に新風をもらたした画家です。12年ぶりとなるこの回顧展では、当館所蔵の代表作『鳴門』や『八ッ橋』に、自宅の地に自らが建てた美術館である大田区立龍子記念館や東京国立近代美術館の作品も集います。初期から晩年まで、迫力満点の主要作品のみならず、『ホトトギス』の同人でもあった彼の俳句に関わるものや、家族へ向けた小さくて優しい初公開作品もラインアップ。改めて、龍子の全貌に迫る内容となっています。

1885年に和歌山に生まれ、上京して洋画家をめざした龍子ですが、画業修行のための渡米後に日本画に転向しました。独学で学んだ日本画は、院展にも入選するものの、その大胆さと大画面により「会場芸術」との批判を受け、内部での確執も重なって、院展を脱退します。その批判を敢えて自身の画業宣言として「青龍社」を立ち上げ、厳しい戦時中も展覧会を開催して、常に大衆のための作品を発表し続けました。そこには、洋画からも学んだ彼の独自性とともに、写経や障壁画などの日本の伝統美を継いだ工夫も加えられ、金銀泥や箔、リズミカルな装飾性も活かされて、豪胆さと優美さが同居する華やかな画面が現前します。
また、20代から生活のために手がけた新聞や雑誌の挿絵画家としての仕事が、彼に同時代の世相を俯瞰的に見つめるジャーナリズム的な視線を付与します。その客観性が戦後の『爆弾散華』や『金閣炎上』、『夢』などの傑作に結実します。
闘志ともいえる強固な意志を貫き、激しい筆致と大画面の独創で、在野から画壇を刺激し続けた龍子。一方では、女性誌の表紙を飾り、わが子のためにかわいらしい姫屏風をつくり、戦後来日した象と戯れる子どもたちを描き、俳句や俳画にいそしむ繊細で優しい一面も作品に遺しています。

平成のいま見ても、新しく映る「日本画」の超ド級ぶり。あまり幸福ではなかったという子ども時代から、自らを龍の落とし子として「龍子」と名乗った彼の、剛柔併せ持った表現を体感してください。

院展脱退後、自ら立ち上げた青龍社の第1回展に出された記念すべき一作。音が聞こえそうな勢いの渦がさかまく海には、高価な群青の岩絵具が六斤(約3.6㎏! )も使われているそう。 川端龍子 《鳴門》 1929(昭和4)年 絹本・彩色 山種美術館

海中ではありません。龍巻に巻き込まれた海の生物たちが空から落ちてくるさまを描いています。その発想に感服の一作。処々に配された金泥が神話的な印象ももたらします。 川端龍子 《龍巻》 1933(昭和8)年 絹本・彩色 大田区立龍子記念館

海軍省嘱託で大陸に行き軍機に乗った経験から生まれた作品は横7m強! パイロットは画家本人がイメージされています。この大画面すらはみ出る半透明の飛行機は、彼が雄大な風景に魅せられたことを感じさせます。 川端龍子 《香炉峰》 1939(昭和14)年 紙本・彩色 大田区立龍子記念館

終戦2日前、東京空襲直撃の衝撃が飛び散る野菜のクローズアップに表されます。2mの大画面と金箔が示す爆弾の激しさは、同時に無音の鎮魂をも感じさせ、美しさと品格すら獲得しています。 川端龍子《爆弾散華》 1945(昭和20)年 紙本・彩色 大田区立龍子記念館

雑誌や新聞の挿絵は、彼にジャーナリスティックな感覚を育てました。1950年の放火事件の報道に反応した龍子が取材をもとに生み出した作品です。 川端龍子 《金閣炎上》 1950(昭和25)年 紙本・彩色 東京国立近代美術館 [後期展示7/25-8/20]

「【特別展】没後50年記念 川端龍子 ―超ド級の日本画―」

開催期間:~8月20日(日)
開催場所:山種美術館
東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10時~17時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし7/17は開館)、7/18(火)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般1200円
http://www.yamatane-museum.jp/

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