スリリングな思索空間を堪能できる! 「静かに狂う眼差し――現代美術覚書...

スリリングな思索空間を堪能できる! 「静かに狂う眼差し――現代美術覚書」展が開催中です。

文:坂本 裕子

常に絵画という平面から、描く動きの投射を意識しつつ、作品と空間との関係性を追求してきた中西の作品は、繊細な筆の軌跡が独特の詩情とゆらぎを湛えて、観る者を幻惑します。 中西夏之 『R・R・W-4ツの始まりⅢ』 2002年 © Natsuyuki Nakanishi 2017

第二次大戦後の現代美術の主要な作品の所蔵で知られるDIC川村記念美術館。その収蔵品を新しい視点で紹介する「コレクション Viewpoint」として、刺激的な展覧会が開催されています。

戦後、モダニズムから追求された絵画の本質は、ジャクソン・ポロックやアド・ラインハート、フランク・ステラらを生み出し、アメリカ美術のひとつの到達点とみなされました。絵画は完結したとされ、アートはそれ以外の表現手段へと多様化します。それでも、改めてその可能性がいわれる現代、「死なない絵画」を標榜し、思索と独自の言葉の構築を続けてきた美術史・美術批評家 林道郎が、コレクションから現代絵画約90点をセレクトし、絵画の持つ「人間の感覚や想像力や思考のモデルとしての可能性」を模索します。
「静かに狂う眼差し――現代美術覚書」とされた空間は、静謐に、しかし濃密な思考の拡がりで、現代美術の魅惑へと誘います。

ブラッサイによるアンリ・マティスの写真を端緒に、近代から画家のプライベート空間で育まれた、見ることの欲望と対象との関係をたどる「密室の中の眼差し」から始まります。ジョゼフ・コーネルや瀧口修造の作品にその心理を想い、室内が持つ“個性”が消えていく時代性をポップ・アートに感じます。対象を映す鏡の存在も、ロイ・リキテンスタインの作品で散りばめられます。
「表象の零度――知覚の現象学」は、絵画の表面に注目。クロード・モネから始まりジョゼフ・アルバースらの抽象画に、60年代に先鋭化した反射や透過を追求した作家の意識を追います。ここでは、近年評価が見直されつつあるアメリカ西海岸の画家ジョン・マクロフリンのまとまったコレクションがほぼ初公開されるのが見どころです。
ジャスパー・ジョーンズの鉛の作品群を機軸に、“灰色”の作品の意味を探る「グレイの反美学」では、広く捉えたその定義が、クリストの梱包作品や、路上観察で知られる赤瀬川原平の「トマソン」までも射程にします。
「表面としての絵画――ざわめく沈黙」は、大型の抽象画に、画家の動きや筆触が生み出す、揺らぎやささやきを感じる空間。ポロックの身体性や中西夏之の平面と空間への意識、サイ・トゥオンブリーの線の震え、李禹煥の筆跡が生むリズムなど……。それらは同時に、垂直に立てる絵画作品が持つ重力との関係性も示唆します。

ゆるやかに関連する各章を巡れば、現代絵画が持つ謎や魅力に近づけるはずです。

はじまりに示されるマティスのアトリエ風景は、画家本人のオーダーで撮影されました。モデルを見つめる画家の視線、画面に写り込む作品の中の世界、さまざまな「眼差し」について考えさせる構成された一枚です。 ブラッサイ 『マティスとモデル、1939 年』 1973 年

厳格な比率で分割された色面構成は、クールなたたずまいの中に色彩が輝きます。そこには日本美術から得た余白の思想も流れています。 ジョン・マクロフリン 『X-1958』 1958年 DR

アクション・ペインティングの嚆矢とされるポロックのタブローは、その身体の動きの軌跡の美しい集積であるとともに、床に置いて描かれたことを改めて考える契機にもなります。 ジャクソン・ポロック 『緑、黒、黄褐色のコンポジション』 1951年

ジャスパー・ジョーンズの鉛の作品がメイン・ビジュアルとして、会場では案内役として活躍しています。チラシに施された工夫もお見逃しなく。 展覧会ポスターイメージ

DIC川村記念美術館☓林道郎 「静かに狂う眼差し――現代美術覚書」

開催期間:~8月27日(日)
開催場所:DIC川村記念美術館
千葉県佐倉市坂戸631
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般1000円
http://kawamura-museum.dic.co.jp

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