三菱一号館美術館の「オルセーのナビ派」展は逸品ぞろい! 国内初の本格的な展覧会をお見逃しなく。

  • 文:坂本 裕子

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妻マルトをモデルに10人の女神で表した芸術賛美は、まるで音楽のように美しい色彩のハーモニーを奏でます。至高の10人目が画面中央奥に輝く肢体を見せています。 モーリス・ドニ 《ミューズたち》 1893年 油彩/カンヴァス © Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

近年、改めて国際的に注目され、評価が高まってきた「ナビ派」。このグループの活動を概観する、国内で初めての本格的な展覧会が、東京・三菱一号館美術館で開催中です。

19世紀末、近代絵画の大変革であった印象派を経て、画家たちはそれを超える表現を模索していきます。アカデミスムの制約から自由になったパリでは、前衛的な若手アーティストたちが「ナビ派」を結成しました。

「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味します。新たな美の先駆者を名乗った彼らが生み出した作品は、平面的で装飾的な画面と、観るものを引き込むようなニュアンスをもち、絵画表現の可能性を広げるものでした。まさに20世紀美術の誕生を予兆する革新的な試みに満ちていたのです。

しかしながら、この新しい表現は、美しく穏やかな色彩に、静かで内向的な雰囲気のためか、これまであまり大きく取り上げられてきませんでした。このたび、印象派と並びナビ派のコレクションも充実しているオルセー美術館から来日している作品たちは、近年収蔵された作品の日本初公開を含めていずれも超一級品! フランスが世界に誇る近代美術の殿堂からの文句なしのセレクトでその魅力と革新性を感じさせてくれます。

会場は、ナビ派誕生に大きな影響を与えたゴーガンとポン=タヴァン派の画家たちの章「ゴーガンの革命」から、パリに持ち帰られたセリュジェの代表作に集い、新しい美を追求し展開していったナビ派の軌跡を、「庭の女性たち」「親密さの詩情」「心のうちの言葉」「子供時代」「裏側の世界」のテーマに沿って追うようになっています。

「親密派(アンティミスト)」と呼ばれたボナールとヴュイヤールの温かくて密やかな室内画、意味深な物語性に皮肉な視線が感じられるヴァロットンのモノトーンの版画、ドニの神秘的で穏やかな詩情、夢や魔術的な世界を描いたランソンや、それらを彫刻に表わしたラコンブなど、同時代の象徴主義からも深く影響を受けた彼らの作品は、表されているものの内面へとわたしたちを誘います。

近代都市生活の風景の中に、やわらかい落ち着きとどこか不穏で醒めた要素も併せ持つナビ派の魅力。それは、装飾的な平面性と歌うような色彩に込められた、見えない物語が立ち現われてくるからなのです。親密な距離で向かい合える会場で、傑作たちの声高ではない“ささやき”や“ざわめき”を聴き取ってみてください。

ナビ派誕生の端緒ともなったゴーガン、彼の代表的な自画像も来日しています。ブルターニュの教会にあった黄色いキリストに自身の生涯と使命を重ねた、強い瞳が印象的な作品。 ポール・ゴーガン 《「黄色いキリスト」のある自画像》 1890-1891年 油彩/カンヴァス © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

ナビ派結成にあたり、その宣言となり、象徴となった記念的作品。川面に映る並木の風景は単純化され、鮮やかな色の重なりが抽象絵画のようにも見えます。タイトルのとおり、彼らの精神的な拠りどころとなりました。 ポール・セリュジエ 《タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川》 1888年 油彩/板 © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

“日本かぶれのナビ”と言われたボナール、流れるような曲線と文様のような植物に彩られた女性たちは、かつては屏風に仕立てられていました。四季と人生の時間の経過が表現されています。 ピエール・ボナール 《庭の女性たち》(左から)「白い水玉模様の服を着た女性」「猫と座る女性」「ショルダー・ケープを着た女性」「格子柄の服を着た女性」 1890-91年 デトランプ/カンヴァスに貼り付けた紙、装飾パネル © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

色面で構成され、鮮やかな色彩の自画像は、後のフォーヴを先取りし、支持体の形とともにナビ派の先進性を強く印象づけます。2016年にオルセーに新収蔵され、ナビ派のラインナップにさらなる厚みを加えました。エドゥアール・ヴュイヤール《八角形の自画像》 1890年頃 油彩/厚紙 © Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

ブラウスの格子模様の中から浮かび上がるのは、くつろいだ表情の女性と愛らしい猫の姿。クローズアップの親密な空気とともに人物の左右も上下も切り取った構図は浮世絵の影響も感じさせます。ピエール・ボナール《格子柄のブラウス》 1892年 油彩/カンヴァス © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

「オルセーのナビ派展:美の予言者たち ― ささやきとざわめき」

~5月21日(日)
開催場所:三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10時~18時(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日(ただし3/20、5/1、15は開館)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般1,700円

http://mimt.jp/nabis/