森美術館の『未来と芸術展』でAIや温暖化、生命倫理を改めて考える。

  • 文:はろるど

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アウチ『データモノリス』2018年、19年 イスタンブールを拠点に活動するデザインスタジオによる、映画『2001年宇宙の旅』のモノリスを思わせる高さ5mもの直方体。トルコ南東部の世界遺産、ギョベクリ・テペ遺跡(紀元前9600年〜7000年頃)に残された図像を最新のAIで解析し、抽象的な映像に変換している。写真:木奥惠三 画像提供:森美術館

AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など、日々進化する最先端テクノロジーは人々の暮らしを豊かにするとともに、当たり前とされてきた人間像や社会観を大きく変えてきた。森美術館の『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』では、現代アートから、建築、デザイン、プロダクト・イノベーション分野まで約100点の作品を展示し、変わりゆくライフスタイルや社会のあり方について考察している。

テーマのひとつが、自然との共生を目指し、再生エネルギーを利用した未来型の都市だ。コペンハーゲンを拠点とするビャルケ・インゲルス・グループは、海上で1万人が生活できる持続可能な都市計画を考案。2200年の東京を「里山」として構築するプロジェクトや、アメリカのNASAで進む火星移住計画の住居コンペ案も紹介され、地球規模の人口増大や環境問題に対処するさまざまなアイデアを提示する。

ロボットは、さらに身近になるだろう。子どもたちとロボットがバスケットボールに興じる仮想風景を写したヴァンサン・フルニエの作品は、ロボットが人間のパートナーとしての役割を果たす時代も遠くはないことを示している。未来は明るく、快適になると期待させられるのだ。

パトリシア・ピッチニーニ『親族』2018年 オランウータンと人間の架空の交配種をもとに、母親がふたりの子どもを優しく抱く様子をシリコンやファイバーグラスで表現。母と子は外見こそ違えども、仲睦まじく手を取り合い、確かに親子の絆を感じさせる。

一方で、人間の能力を高め、病気を克服するために研究が進んでいるバイオテクノロジーの分野では、遺伝子操作など生命倫理の問題を多くはらんでいる。オランウータンと人間のハイブリットの母子を表したパトリシア・ピッチニーニ『親族』を前にすると、紛れもない母子愛の表現に心惹かれながら「人工的に生命をつくることは正しいのか」と疑問を覚える。先述したロボットが自らの意志をもち、人間にとって代わる地位を得ることも想像に難くない。

ラストにそびえ立つアウチの『データモノリス』のスピーディに変化する映像を前にしていると、AIの底知れない可能性を感じるとともに、まるで宇宙の果てへと旅しているかのような気分になる。まだ見ぬ未来の世界を夢見つつ、現実の多くの課題に目を向けた時、展覧会タイトルの「人は明日、どう生きるのか」という問いが初めて肌身に迫って感じられるのだ。

ビャルケ・インゲルス・グループ『オーシャニクス・シティ』2019年 約1万人が生活できる海上コミュニティ計画の構想図。エネルギー、水資源、食料や廃棄物の流れを制御し、地球温暖化に伴う海面上昇に対応可能な海洋都市モデルを提案している。

ディムート・シュトレーベ『シュガーベイブ』2014年〜 ゴッホが切り落とした左耳を再現すべくタンパク質でつくった彫刻作品。ゴッホとY染色体を共有する子孫の耳の軟骨細胞や唾液のDNAを注入し、3Dのバイオプリンターとポリマー製の培養基材によって出力している。果たして死んだ人間をクローン技術で復活させる時代はやってくるのだろうか?

『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』

開催期間:2019年11月19日(火)〜2020年3月29日(日)
開催場所:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~22時 ※火曜日のみ17時まで。但し12/31、2/11は22時まで。)※入館は閉館30分前まで
休館日:会期中無休
入場料:一般¥1,800(税込)
www.mori.art.museum