フィンランドに行くなら欠かせない新スポットが誕生! 生まれ変わった「ムーミン美術館」とは?

  • 撮影・文:内山さつき

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ミュージアム内は作品保護のため照明を落としていますが、プロジェクションマッピングを使った遊び心たっぷりの演出がたくさん。いっそう世界観を楽しめるつくりになっています。

今年独立100年を迎えるフィランドの大きな記念事業のひとつとして、タンペレ市にあったムーミン谷博物館が6月17日、「ムーミン美術館」としてリニューアルオープンしました。日本でも人気の高い、フィンランドの作家、トーベ・ヤンソン(1914〜2001)の代表作「ムーミン」シリーズの物語の世界を、貴重な原画とともに感じることのできる体験型ミュージアムとして、いま、世界中から熱い視線を集めています。

ヤンソンがムーミン関連の原画やタブローなどおよそ2000点をタンペレ市に寄贈したのは1986年のこと。翌年には「ムーミン谷博物館」がオープンし、ムーミンの原画が見られる場所として親しまれていましたが、複合アート施設のタンペレホールへの移設を機に展示内容を全面的にリニューアルし、本格的な美術館として生まれ変わりました。

常設展では、ムーミンの童話9作品と絵本3作品の原画を中心に、物語の世界を紹介しています。描かれた背景に戦争の影が感じられる最初の作品『小さなトロールと大きな洪水』(1945年)から年代順に、子どもの頃の楽しい思い出を振り返って描いた『たのしいムーミン一家』(1948年)、ムーミントロールの自立をテーマにした『ムーミン谷の冬』(1957年)、人生の秋を見つめたメランコリックで叙情的な『ムーミン谷の十一月』(1970年)など、それぞれの作品を通して、物語のテーマやイラストレーション技法の変遷を追っていくことができる構成になっています。時代ごとに少しずつ形を変えるムーミンが比較できるギャラリーや、キャラクター紹介をヤンソンの原画で味わえるのは、美術館ならではの喜びです。

森の中に潜む不思議な生きものの目の光や、ざわめくニョロニョロたち、飛行鬼の魔法の帽子のアトラクションなど、プロジェクションマッピングを取り入れた仕掛けもたくさん。階下へ続く階段では、本の中で親しんだ誰かのシルエットを見かけることもできるかもしれません。大きな絵本をめくったり、彗星の音を聞いたり、ジオラマの中を探検したり。五感をフルに使って、まるでムーミン谷の世界へと迷い込んだような体験ができるのです。(次ページに続く)


© Moomin Characters TM

作品エリアを示す目印は、本の表紙の形をしていて、訪れる人を導いてくれます。ミュージアム入り口では、手元で作品解説が読めるガイドブックの貸し出しも。

階下へと降りる人の目を奪う、『ムーミン谷の彗星』に描かれた彗星をイメージしたオブジェは、フィンランド人のアーティスト、ハンナ・ヴィヒリアラさんの作品。ヤンソンの絵からインスパイアされたこの作品には、なんと約20万個のビーズが用いられています。

立体作品に設置されている音声ガイドは、その作品のイメージのもとになった原作のシーンの朗読がフィンランド語、スウェーデン語、日本語、英語など6ヶ国語で楽しめます。スウェーデン語の声は、トーベ・ヤンソンその人のもの。ぜひ一度聞いてみて。

初公開となる貴重な立体作品も

1976年〜79年の3年間にわたって制作されたムーミン屋敷の立体作品は、ヤンソンたちも夢中になって取り組んだ力作。サウナや貯蔵室のある地下室、船の形をしたムーミンパパの部屋、秘密の通路など、わくわくするアイディアがたくさん詰め込まれています。

トーベ・ヤンソンがパートナーのグラフィックデザイナー、トゥーリッキ・ピエティラ、友人のペンティ・エイストラとともに作り上げた数々の立体作品もミュージアムの目玉のひとつです。5階建ての2メートル50センチのムーミン屋敷をはじめ、物語のシーンを再現した手作りの立体作品約30点が勢ぞろい。中には、今回のリニューアルのために修復され、初公開されたかなりレアな作品たちも。

この常設展のテーマは、「それからどうなるの?」。1952年に出版された同名のしかけ絵本『それからどうなるの?』がコンセプトとなって、絵本の色使いに合わせた壁紙やパターンが会場を彩ります。「トーベの絵本をめくるときのように、次に何が起こるかわからない、わくわくする気持ちを大切にしたかった」とムーミン美術館ディレクターのタイナ・ミュッリュハルユさん。美術館チームが長い時間をかけてこのプロジェクトに取り組み、ていねいにつくり上げてきたことが伝わってきます。

トーベ・ヤンソンの姪で、ムーミンの版権を管理するムーミン・キャラクターズの代表、ソフィア・ヤンソンさんは、オープニング・セレモニーでこう謝辞を述べました。「トーベは、その時代に生きた人たちの中でも、極めて稀な存在でした。女性は結婚して家庭を守ることが当たり前だった時代に、仕事をすることを選び、自立した女性として新しいアイデンティティをつくり上げました。自由で独立したひとりの人間として、人生を芸術に捧げたのです。トーベがムーミンの物語を通して描いた最も大切なことは、友情、寛容、家族、他者への思いやり、自然への敬意、冒険、そしてユーモアです。この美術館では、トーベのオリジナルの作品を通して、きっとその精神に触れることができるでしょう」。

辛い戦争の時代を乗り越え、社会に残る固定観念と葛藤しながらアーティストとして自由に生きることを選択したトーベ・ヤンソン。彼女の強く優しく、開かれた眼差しは、新しく生まれ変わった美術館にもしっかりと受け継がれていました。

ムーミン美術館の企画展第1弾は、ヤンソンの誕生日、8月9日にオープン。独立100年を迎え、ますます盛り上がりを見せるフィンランドに、今後も目が離せないスポットの誕生です。


© Moomin Characters TM

協力:フィンエアー http://www.finnair.co.jp/  

Visit Finland(フィンランド政府観光局) http://www.visitfinland.com/ja/

「細ごまコレクション」と名付けられた一連の作品は、1993年にタンペレ市に寄贈されたもので、今回初公開となる貴重なもの。ムーミンの立体作品の素材やスケッチ、スライド、写真などがあり、作品の修復や研究に大きく寄与することになりました。

ミュージアムショップにはオリジナルのグッズも。美術館カタログのほか、アラビアのマグカップや箱が素敵なチョコレート、ポストカードなどがあり、どれにしようか迷ってしまうこと請け合い。また、ホール内のポストからハガキを出すと、オリジナルの消印を押してもらえるサービスもあります。

タンペレホール内の「レストラン・トフト」では、ムーミンにちなんだメニューも。ムーミンのキッシュやスナフキンをイメージしたパンケーキは、おいしくてかわいい。スープやサラダなど手軽なランチメニューもあるので、ぜひ予定に組み込んで。

タンペレホール(フィンランド語ではタンペレタロ)は、タンペレ・フィルハーモニー管弦楽団と様々なイベントが行われるタンペレホール、ムーミン美術館で構成される誰でも気軽にアートが楽しめる場所。ヘルシンキからの高速列車が到着するタンペレ駅より徒歩でアクセスできます。

フィンエアーの直行便は、日本からヘルシンキまで9時間半の最短最速でヨーロッパへ。機内のマリメッコとのコラボレーションも魅力的。ストップオーバーを利用すると数日間フィンランドに滞在が可能です。ストップオーバーで楽しめるプランも充実。http://www.visitfinland.com/ja/stopover/

ムーミン美術館

Tampere-talo, Yliopistonkatu55, Tampere Finland

営業時間:9時~19時(土・日は11時〜18時、12月31日は〜16時)

休館日:月曜日、12月6日、23~26日

入場料:大人12€、子ども6€(3~17歳)、3歳以下無料

https://muumimuseo.fi/ja/