アーティストの感性とメゾンの職人技の競演、エルメスの展覧会『眠らない手』の第二期がスタート

  • 文:青野尚子

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アナスタシア・ドゥカがジョンロブのスタッフとともにつくった靴。「これはジョンロブの集団としてのアイデンティティなのです」とアナスタシア。  展示風景
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

東京・銀座メゾンエルメスなどに展示スペースをもち、長年アート分野のサポートを行っているエルメス財団。その活動のひとつに「アーティスト・レジデンシー」と呼ばれるものがあります。経験を積んだアーティストがメンターとなって有望な若手アーティストを選び、皮革やテキスタイルなどエルメスの工房に滞在しながら作品制作を行うというもの。その成果を報告する展覧会『眠らない手』のVol. 2が、銀座メゾンエルメスのフォーラムで始まりました。11月4日まで行われていたVol. 1に続くこのVol. 2では、5名の作家が紹介されます。

テキスタイルの工房で作品を制作したのはビアンカ・アルギモン。彼女は現代の「失楽園」をイメージしたドローイングを描き、工房の職人たちの助けでその絵を極薄のシルクにプリントしました。画面にはたくさんのアダムとイヴと、リンゴの木や実が登場します。ちょっと行儀の悪いアダムやイヴはヒエロニムス・ボスの「快楽の園」なども思い出させます。

今回はたまたま、5名全員が女性です。その中でもフェミニズムを強く感じさせるのがジェニファー・ヴィネガー・エイヴリーの作品。彼女が“ショップ”と呼ぶブースには、不気味な人形や鏡などがぎっしりと詰め込まれています。エイヴリーの母と祖母は人形を集めるのが趣味でしたが、当時の女性は低い地位に甘んじなければなりませんでした。そしていまも、その状況は続いています。一見、恐ろしいけれど鋭いユーモアが漂うお店に、ぜひ出かけてみてください。

ルーシー・ピカンデが皮革工房と協力してつくり上げた作品はワニと女神を組み合わせたもの。無限と、魂の再生を象徴しています。アナスタシア・ドゥカはイギリスの靴メーカー、ジョンロブの従業員たちに「自分が履きたい靴」のイメージを尋ね、98足の革靴をつくりました。皮革工房でのレジデンシーでイオ・ブルガールは、さまざまな機能を持つ道具を収納できるボートのようなオブジェを制作しています。

「眠らない手」というタイトルについて、本展のキュレーター、ガエル・シャルボーは「手は思考から自由であり、無意識の手の動きから生まれるものもたくさんある」と言います。若いアーティストと熟練の職人の手が生み出した個性的な作品が揃う展覧会です。

工房でのビアンカ・アルギモン(前列右から二人目)。向こうが透けて見える上質なシルクの特性を活かした作品を制作しました。Photo:Tadzio, 2017©︎Fondation d'entreprise Hermes

ホラーな雰囲気も漂うジェニファー・ヴィネガー・エイヴリーの作品。材料は端布など、捨てられていたゴミなのだそう。展示風景
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

ルーシー・ピカンデの作品。右の作品は女神から生まれたワニが女神を食べているという「ウロボロス」と呼ばれる図像です。奥はキャンバスを床に置いて絵の具をドリッピングするといった手法でつくられたもの。展示風景
©Nacása & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d'entreprise Hermès

イオ・ブルガールと彼女の作品。革でつくられた小さなボートにそのすべてが収納される仕組みになっています。Photo:Tadzio, 2016©︎Fondation d'entreprise Hermes

工房でのアナスタシア・ドゥカ。加工される前の革の美しさや、職人の確かな目に感銘を受けたそう。Photo:Tadzio, 2017©︎Fondation d'entreprise Hermes

「眠らない手」 エルメスのアーティスト・レジデンシー展 Vol.2 
開催期間:2018年11月15日(木)~2019年1月13日(日)
開催場所:銀座メゾンエルメス フォーラム
中央区銀座5-4-1 8階
TEL:03-3569-3300 
開場時間:11時〜20時(月~土、最終入場19時30分) 11時~19時(日、最終入場18時30分)
不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)  
入場無料