京都の路地奥に、アートに浸れるユニークな隠れ家サロンがオープン

  • 写真:内藤貞保
  • 文:小長谷奈都子

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木目が美しいケヤキの一枚板のテーブルは、一つひとつデザインの違う8脚のイスとともに、伏見にある坂田卓也製作所にオーダーしたもの。

京都には知らないと通り過ぎてしまうような路地が数多あり、その奥には魅力的な料理屋やショップが隠れていたりする。富小路三条上ルといえば、周辺には老舗旅館や料理屋が立ち並び、ショップやカフェなどがひしめく超一等地。その路地奥にアート好きをワクワクさせるユニークなサロン「H2O(エイチ・ツー・オー)」が誕生した。

「H2O」は、美術に関する展覧会のカタログやポスターなどを手がける大向デザイン事務所に併設するギャラリーとして、2008年にオープン。さまざまなジャンルの作家の個展や期間限定のポップアップ書店、学生たちの陶芸展など、遊び心あふれる展覧会を開いてきた。その数は11年間で、265回。そして、ギャラリーとしての役割を全うしたあと、同事務所が長年にわたって手がけてきた日本全国の美術館や博物館のカタログを閲覧できるサロンに生まれ変わったのだ。

オーナーの大向務さん。手にしているのは、2017年に京都国立近代美術館で開催された『技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸』展の1000部限定の特装版カタログ。

本棚は、工芸、神社仏閣、浮世絵、近世、洋画、写真、デザインに分類。気になるカタログを自由に閲覧できる。

「事務所を立ち上げたのは2000年ですが、展覧会の仕事を始めてからは40年になります。展覧会カタログには、その周りの作品や若い時の作品などが載っているところが、名作ばかりの美術書と違って面白い。展覧会が終わった後も、ゆっくり手に取って見てもらえる場所をつくりたかったんです」。大向デザイン事務所のアートディレクターであり、H2Oを運営する大向(おおむかい)務さんは語る。本棚にずらりと並ぶカタログは、日本各地で開催された国立の美術館や博物館から、私設美術館、小さなギャラリーの個展まで、実に多彩。自社デザインのものも多く、今後はさらにラインナップを増やして幅広く集めていきたいとのこと。行こうと思っていたのに、行けずに終わったものや、遠くて諦めてしまったもの。そんな展覧会を机上で体験できるなんて嬉しい限りだ。


こちらは2018年に京都国立近代美術館で開催された『明治150年展 明治の日本画と工芸』のカタログ。七宝を思わせる立体的で光沢のある加工が贅沢。

これまで事務所で手がけてきたカタログの一部。版形や表紙の特殊加工、カバーの素材など、それぞれの展覧会に合わせた工夫が盛り込まれている。

場所は富小路三条を上がった西側。暖簾を目印に奥へ。

路地を進むと、大きなドングリの木の下に静かな空間が広がる。

これほど多くの種類の展覧会カタログが一堂に会し、自由に閲覧できる場所は、そうそうない。一冊一冊を見ていると、表紙の特殊加工や紙の質感、フォント、カラーリング、レイアウト、付録など細部にまでこだわり、展覧会のコンセプトや世界観をていねいに表現しているのがよくわかる。カタログそのものをアート作品として楽しめるのだ。「その都度、いろいろなアイデアや工夫を盛り込んでやってきました。煮詰まったら、本屋に行って表紙まわりを見に行ったりして。特に、印刷技術や加工技術は勉強しましたね」と大向さん。

オープンは、ゆるっと月、水、金の週3日。北大路のカフェ「昼行燈」が出張し、オリジナルブレンドの香り高いコーヒーや、インドの隠れた紅茶の名産地、シッキム州のテミ茶園の紅茶、ハートランドの生ビールが楽しめる。芸術の秋、路地奥の静かな空間で、コーヒーや生ビールを片手に、いつもと違うアート鑑賞はいかがだろう?


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小上がりになった和室もあって、靴を脱いで寛げる。

昼行燈の店主がネルドリップで淹れるコーヒーは、コロンビアとブラジルをベースにした深煎り。

コーヒー¥500(税込)にはお茶請けが付く。飲み終わる頃には、口直しにと日本茶のサービスがあり、つい長居してしまう。

大向さんがぜひ置きたかったという生ビールのサーバー。瓶ビールもある。生ビール¥500(税込)

H2O
エイチ・ツー・オー
京都府京都市中京区富小路通三条上ル福長町109
TEL:075-213-3783
営業時間:10時〜15時
定休日:火、木、土、日、祝
※不定期営業のため、事前にSNSで要確認
www.instagram.com/galerie.h2o/