明快な線と色で小動物たちを描いた、熊谷守一の生涯の作品をたどる大回顧展...

明快な線と色で小動物たちを描いた、熊谷守一の生涯の作品をたどる大回顧展を見逃すな。

文:内山さつき

猫を愛した熊谷は、数多くの猫を描いた作品を残しています。熊谷守一 『猫』 1965年 愛知県美術館 木村定三コレクション

明るい色彩と単純化された形で、花や虫、鳥や猫などの小動物を描いた画家・熊谷守一。白い髭と着物姿で、晩年は「超俗の画家」と呼ばれました。身近な生き物をテーマにした洒脱な作風は、多くの人々に愛され続けています。

そんな熊谷の回顧展『没後40年 熊谷守一 生きるよろこび』が、2018年3月21日(水・祝)まで東京国立近代美術館で開催。画家を志し、美術学校に入学した20代の頃から作品をたどり、苦難に満ちた前半生を経て、晩年の明るく達観した境地に至るまでの画風の変遷を展示しています。

光と影に強い関心を抱いていた若き日の熊谷。夜間、列車に飛び込み自殺をした女性をとらえた「轢死」や、暗い部屋の中で蝋燭の灯火を持った自画像「蠟燭(ローソク)」などを描き、闇の中のほのかに浮かぶ光の表現を追及しました。やがて厚く絵の具を塗り重ねた裸婦像や、山の稜線に差す光を描いた風景画などから、次第に晩年の作品の特徴である、くっきりとした輪郭線や明快な色づかいが生まれてきます。思うように絵が描けず、経済的にも苦しい中、3人の子どもを次々に亡くすという悲劇にも見舞われながら、熊谷は独自の画風を確立していくのです。
76歳で体を壊してからは、ほとんど自宅を出ず、庭に訪れる小さな生き物を単純明快なフォルムと色彩で描き続けました。本展では、200点を超える作品に加え、スケッチや日記など制作の裏側を伝える資料も展示しています。

「みんなはわたしのことをすぐ仙人、仙人と呼びますが、わたしは仙人なんかじゃない、当たり前の人間です」と、著書『蒼蠅』の中で語る熊谷。軽やかな作風の底に秘められた、人生の機微と飽くなき色彩探求など、熊谷作品の魅力に最大限に迫るこの展覧会。見逃せません。

後に妻となる大江秀子を描いた作品。熊谷守一 『某夫人像』 1918年 豊島区立熊谷守一美術館

熊谷作品には、同じ図柄のものが複数存在します。同じ風景の、違う時間を描くという意図のあるこの『御嶽』もそのひとつ。熊谷守一 『御嶽』 1954年 岐阜県美術館

小さな昆虫を描くときには、地面に寝そべって観察したという熊谷。自身の30坪ほどの庭の小宇宙をひたすらに描きました。熊谷守一 『ハルシヤ菊』 1954年 愛知県美術館 木村定三コレクション

若い頃から光の見え方をテーマに探求を続けてきた熊谷が、光源そのものを描いた作品。熊谷守一 『朝の日輪』 1955年 愛知県美術館 木村定三コレクション

1971年 (91歳)に撮影された熊谷守一。  撮影:日本経済新聞社

『没後40年 熊谷守一 生きるよろこび』
開催期間:2017年12月1日(金)~2018年3月21日(水)
開催場所:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~17時、10時~20時(金、土) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月、2017年12月28日(木)〜2018年1月1日(月)、1月9日(火)、2月13日(火) ※1月8日(月)、2月12日(月)は祝日のため開館
入場料:一般¥1,400(税込)
http://kumagai2017.exhn.jp/

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