思わずもっと見たくなる! 名画に潜んだ闇の魅力が満載の『怖い絵』展を見逃すな。

  • 文:坂本 裕子

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ポール・ドラローシュ 『レディ・ジェーン・グレイの処刑』 1833年 油彩、カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, © The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

神戸で2017年夏に開催され、大反響を呼んだ『怖い絵』展が、東京・上野の森美術館でも開催され、話題となっています。

恐怖を感じる絵画の案内書として、ベストセラーとなった『怖い絵』シリーズ。この本の著者である、作家でドイツ文学者の中野京子特別監修でセレクトされた作品をはじめ、油彩画や版画、約80点が集結しています。神話や聖書、悪魔や怪物の世界、この世の不幸、歴史的な事件など、さまざまなモチーフで描かれた「怖い」作品を、わかりやすい解説とともに楽しめる展示です。

なかでも注目は、1973年に奇跡的に発見され、一躍有名になった『レディ・ジェーン・グレイの処刑』です。15歳でイングランドの最初の女王になりながら、わずか9日間で玉座を降ろされ斬首された、その処刑直前を描くポール・ドラローシュの大作は、今回が初来日。暗い画面に白いドレスで浮かび上がる可憐な少女の心情を想うと、怖さは倍増します。また、人を破滅へと導くセイレーンや魔女キルケーの妖艶さ、神の命令には非情にもなれる天使の姿、天災のパニックや悲劇の情景は、解説を読んでその背景や物語を知れば、なお妖しい魅力を放ちます。

しかし、なによりも怖いのは人間なのかもしれません。あのポール・セザンヌがかなりの点数を描いていたという殺人のシーン、ウォルター・リチャード・シッカートによる、19世紀末にロンドンを恐怖に染めた切り裂きジャックの寝室、安酒のジンで身を滅ぼしていく貧民街の人々を描いたウィリアム・ホガースの作品などが、そうした人間がもつ闇の世界を浮き彫りにします。

「怖いもの見たさ」にうったえる、一風変わったこの展覧会は、2017年12月17日(日)まで開催。作品がもつ新たな魅力に気づかせてくれる、見応えある展示をお見逃しなく。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 『オデュッセウスに杯を差し出すキルケー』 1891年 油彩、カンヴァス オールダム美術館蔵 © Image courtesy of Gallery Oldham

ヘンリー・フューズリ 『夢魔』 1800~10年頃 油彩、カンヴァス ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アート・センター蔵 © Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar College, Poughkeepsie, New York, Purchase, 1966.1

オーブリー・ビアズリー ワイルド『サロメ』より『踊り手の褒美』 1894年 ラインブロック、紙 個人蔵

ギュスターヴ・モロー 『ソドムの天使』 1885年頃 油彩、カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館蔵 © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

フレデリック=アンリ・ショパン 『ポンペイ最後の日』 1834~50年 油彩、カンヴァス  プチ・パレ美術館蔵 © RMN-Grand Palais / Agence Bulloz / distributed by AMF

「怖い絵」展

開催期間:2017年10月7日(土)~2017年12月17日(日)
開催場所:上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時~20時 ※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
入館料:一般¥1,600(税込)
www.kowaie.com