日々の生活から企業・団体の活動まで、SDGsの達成を目指してさまざまな取り組みが行われている中、画期的なイベントが福岡県北九州市で始まった。『北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs』（会期：4/29～5/9、一部会期延長）、ディレクターは南條史生。SDGsをテーマに掲げた芸術祭だ。

北九州市立いのちのたび博物館が有するアンモナイトなどの収蔵品を撮影、新しいメディア装置による表現を試みた落合陽一の『環世界の遠近法　ー時間と空間、計算機自然と芸術ー』。3Dプリンターで土の造形物をつくり苔を蘇生させた、田中浩哉研究室＋METACITY（青木竜太）の『Bio Sculpture』。ライゾマティクスは、産業用ロボットで知られる北九州の企業、安川電機とコラボして『TT』という映像作品を制作。和田永は、バーコードとスケートボードを組み合わせた音楽のパフォーマンスでダイナミックなグルーヴを創出した。

北九州市立美術館（本館）では「多様性への道」と題した展覧会が開催。30mもの長さの気泡シートにマーカーで着色した東本憲子の『無題』、広島・長崎で原爆の恐怖を体験した耳の不自由な被爆者たちの声を表した南村千里の『沈黙の記譜』、脳梗塞で倒れた後、リハビリに励みながら制作したBABUの『障害 50+0』など、18組の作家の作品はいずれも深い世界をもち、見入らずにいられない。北九州市立いのちのたび博物館は5/30まで、北九州市立美術館の展示は7/11まで会期が延長されているので、公式サイトの解説を見ながらじっくり鑑賞するといいだろう。

北九州地域には工業地帯としての発展と同時に重大な公害に悩まされた負の歴史がある。自然環境を取り戻すためにまず女性が立ち上がり、市民、企業、行政の取り組みで1980年代に環境が改善。2018年、OECDにより「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」にアジア地域で初めて選定された。北九州市だからこそのアートの試みと言える芸術祭。アートによる高揚感をもたらすと同時に未来への視座を誘う、ユニークな内容だ。