異色のアートユニット「米谷健+ジュリア」の日本初個展で問われる、人間と...

異色のアートユニット「米谷健+ジュリア」の日本初個展で問われる、人間と自然の共生。

文・写真:はろるど

『クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会』2012年〜。ウランガラスを用いたシャンデリアのインスタレーション。1点1点に原発保有国の名前が付けられている。

2020年、埼玉県所沢市の地に姿を現した角川武蔵野ミュージアム。美術館、博物館、図書館やカフェを併設する複合施設としてオープンし、日本で最もラノベが充実した「マンガ・ラノベ図書館」や高さ8mの巨大本棚に囲まれた「本棚劇場」をはじめ、隈研吾設計による花崗岩に覆われた巨大な隕石のような建物でも話題を集めている。

その角川武蔵野ミュージアムの「エディット アンド アートギャラリー」のオープンニングを飾ったのが、日本とオーストラリアのアーティストユニットである米谷健+ジュリアの個展『だから私は救われたい』だ。夫婦であり、金融の専門家と歴史学の大学教授という異色の経歴をもつふたりは、環境や社会問題をテーマにインスタレーションを制作する。2009年にはベネツィア・ビエンナーレのオーストラリア代表の1組として選ばれるなど、おもに海外の芸術祭や美術館で活躍してきた。

代表作である『クリスタルパレス:万原子力発電国産業製作品大博覧会』の妖しい光に吸い寄せられる。これは2011年の福島第一原発事故を踏まえて制作された作品で、世界の原発保有国32カ国の電力の総出力規模をシャンデリアの大きさに反映させている。展示室にはカナダや中国など6カ国分が吊るされていて、ブラックライトの照射によりウラン特有の緑色の光を放っている。夜会へと誘われたような雰囲気だが、1851年にロンドンで開かれた第1回万国博覧会の会場だったガラス張りの「クリスタルパレス」に由来しているように、いま世界各国がまるで万博で競い合うように原発を建てていることを暗示しているのだ。

『最後の晩餐』2014年。オーストラリア南東部のマレー・ダーリング盆地では大規模農業の過度な灌漑のために広範囲で塩害が発生。被害を防ぐために地下から毎年55万トンもの大量の塩水を汲み上げている。その汲み上げた水から精製した塩を『最後の晩餐』に用いた。

新約聖書の一場面を表した『最後の晩餐』にも目を引かれる。燭台の並ぶテーブルの上には、ナイフやグラスが置かれ、果実や野菜、牡蠣などの食材が並び、すべてが白く輝いている。一見、石膏で作られているのかと思いきや、素材は意外にも塩だ。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』では、裏切り者とされたユダが塩のカップをひっくり返してこぼす場面が描かれている。そして米谷健+ジュリアは、オーストラリア最大の食料生産地で発生する塩害をリサーチ。塩は神聖であると同時に破壊する力をもつと考え、聖書の場面を引用しながら、農業や食の安全性への疑念を元にして作品を制作した。

ガラスや塩などの壊れやすい素材を多く用いていることにも注意したい。その背景には放射能や環境破壊などへの不安が垣間見られないだろうか。米谷健+ジュリアは「不安を掻き立てる美は人々の心に沁みる」と語っている。美しく神秘的でありながら、もろさや儚さを感じる作品と向き合いつつ、人と自然との共生のあり方について思いを巡らせる。

『Dysbiotica』2020年。白化して死んでいく珊瑚と人間を重ね合わせた作品。珊瑚の中には光合成を行う菌類が生息しているが、珊瑚がストレスを受けると菌類の細胞を排出して真っ白になる「白化」が起こるとされる。その状態が続くと珊瑚は死滅してしまう。素材は磁器土とFRP。

『大蜘蛛伝説』2018年。岡山県と鳥取県の境にある人形峠に伝承する巨大な蜘蛛の物語をモチーフとしている。峠には人を喰らう強大な蜘蛛が棲んでいたため、藁人形を囮にして退治したと言われてきた。同地では1950年代にウランの採掘が行われていて、作品にも『クリスタルパレス』と同じウランガラスが用いられている。

鴻池朋子【武蔵野皮トンビ』2021年。隈研吾の設計による角川武蔵野ミュージアムは、オフィス、ホテル、商業、神社などからなる「ところざわサクラタウン」の中核施設としてオープン。壁面にはアーティストの鴻池朋子による『武蔵野皮トンビ』が張り付くように展示されている。© 2021 Tomoko Konoike Courtesy of Kadokawa Culture Museum

『《米谷健+ジュリア展》 だから私は救われたい』

開催期間:2020年11月6日(金)~2021年3月7日(日)
開催場所:角川武蔵野ミュージアム エディット アンド アートギャラリー
埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン
TEL:0570-017-396
開館時間:10時~18時(日〜木)、10時〜20時(金・土) ※入館は閉館30分前まで
休館日:毎月第1・第3・第5火曜(祝日の場合は開館、翌日閉館)
入場料:一般¥1,200(税込)
※オンラインでの日時指定予約制。マスク着用や入館前の検温、手指消毒液を設置するなど、新型コロナ感染拡大防止のための対策を実施。
https://kadcul.com/

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