戦後日本の住宅建築が大集合、「日本の家」展で生活空間を考えてみませんか?

戦後日本の住宅建築が大集合、「日本の家」展で生活空間を考えてみませんか?

文:坂本 裕子

55㎜角の鉄骨材と床材の多様なサイズの箱を互い違いに組み合わせ、あちこちに“すきま”を持つ光あふれる建築は、部屋や空間への意識を変え、生活そのものへの思索を促がします。 藤本壮介 House NA(2011) Ⓒ Iwan Baan

石で構築される西洋建築に対して、紙と木が主体の日本の建物。近代に西洋建築が輸入されてからも、独自の融合を経て、素材や技術の進化の中で発展してきました。この日本の建築が、いま新たな概念で注目されています。公共建築の設計を主とする諸外国の建築家に対し、日本では個人邸宅を手がけることが多いそうです。その結果、戦後復興、高度経済成長、公害問題、バブル景気、震災といった時代や環境の変化が“家”という私的な建築物にラディカルに反映されます。建替えのサイクルが早く、若い施主が多いのも、その先進性に拍車をかけます。こうした「日本の家」の特色が、日本の建築家の世界的な評価の高まりとともに、浮かび上がってきました。1945年以降に日本の建築家が設計した戸建て住宅からその特徴と意義を問う、画期的な展覧会「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」が、ローマとロンドンでの好評を得て、東京国立近代美術館に凱旋しています。

本展では、50組を超える戦後の代表的な建築家による75の住宅建築を、「プロトタイプと大量生産」「閉鎖から開放へ」「脱市場経済」「感覚的な空間」「すきまの再構築」など、13のテーマで紹介します。建築模型や図面にとどまらず、建築家による設計のコンセプトや住まい手の生活をイメージした映像や写真、デッサンも展示されます。単なる“建築物”ではなく、時代性やそこから醸成される人々の意識や感覚に注目し、“生活空間”として提示される内容は、国内初といえるもの。会場デザインはローマでの展示も手がけたアトリエ・ワンが担当します。清家清が設計した『斎藤助教授の家』の一部を実物大模型で展示する、その大胆な試みとともに注目です。

少子高齢化や晩婚・未婚化、ジェンダーの多様化など、家族像が大きく変化しつつある現代、建築も再び大きな変革を求められています。多様な時代の多様なニーズを形にしてきた日本の家を体感して、未来の生活空間を一緒に考えてみませんか?

寝殿造りを再解釈した丹下の自宅は「日本的なるもの」で、正六角形のユニットで構成された池辺の住宅は「プロトタイプと大量生産」で、時代を反映しつつ紹介されます。 左:丹下健三 住居(1953) 写真提供:内田道子 / 右:池辺陽 住宅No.76(1965) Ⓒ 大橋富夫

「感覚的な空間」で紹介される建築は、抽象性の中にも、感覚が研ぎ澄まされるリアリティをもたらします。プロの写真家ではない多木による写真もそれを象徴します。 左:伊東豊雄 中野本町の家 / White U(1976) 写真:多木浩二 / 右:模型と内部写真展示風景

標高1000mを超える高原の家は、溶接も含めて施主自らが1974年から手がけ、いまも手を入れています。屋根にニラの鉢植が並ぶニラハウスは赤瀬川原平の自邸。 左:石山修武 開拓者の家(1986) Ⓒ 石山修武 / 右:藤森照信 ニラハウス(1997) Ⓒ 増田彰久

ひとつの敷地に大きさも形も異なる10の建築が分散した森山邸と賃貸用の集合住宅は、その建築により生まれる“すきま”も空間を形成する要素として機能します。「すきまを再定義する」のコーナーで。 西沢立衛 森山邸(2005) Ⓒ ホンマタカシ

日本での開催は東京国立近代美術館のみ。会場デザインは、ローマ展と同じく日本を代表する建築家、アトリエ・ワンが手がけています。この空間構成も楽しんで。 東京会場の展示風景

「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」

開催期間:開催中~10月29日(日)
開催場所:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10時~17時(金、土曜は21時まで) ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(ただし9月18日、10月9日は開館)、9月19日、10月10日
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般1,200円 ※各種割引あり
(当日に限り同時開催の所蔵品展「MOMATコレクション」も閲覧可能)
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/the-japanese-house/

戦後日本の住宅建築が大集合、「日本の家」展で生活空間を考えてみませんか?