写真は失ったものとどう向き合うことができるのだろうか? 畠山直哉写真展『まっぷたつの風景』からの問いかけ。

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    写真家、畠山直哉の展覧会「まっぷたつの風景」が、せんだいメディアテークにて開催中です。1980年代から作品を発表してきた畠山。岩手県陸前高田市出身の彼にとって10数年ぶりに東北地方で開催される大型個展である本展は、これまで発表してきた全シリーズが一堂に会する貴重な機会です。

    畠山直哉の作品は、計算され尽くした構図の美しさからにじみ出る、クールな世界観が特徴的。本展は、デビュー作の「等高線」から代表作の「アンダーグラウンド」「ブラスト」など充実のラインナップに加え、約550枚のコンタクトプリントが見る者を圧倒します。35メートルあるテーブルに時系列に並べられた作品のタイトルは「陸前高田2011-2016」。東日本大震災という未曾有の大災害で彼は実母を失い、家族も旧友もみなが被災、故郷の景色は一変しました。当時、都内で展覧会を控えていた畠山は、その風景を目にしてこれまで撮影してきた故郷のスナップ写真を「みせる」ことを決断します。それは本来プライベートな写真でした。この発表に戸惑う声もありましたが、以降、彼は故郷の風景を撮影し続けたのです。

    それまでの畠山作品には「なぜこんなものを撮ったの?」という被写体がクールな表情で写し出されてきました。しかし考えてみれば、冷たいのは畠山の感性ではなく、つまらない被写体と見捨てる私たちの視線の方ではないでしょうか。むしろ、彼は誰も見向きもしないような対象をひとり見つめ続けてきたのです。「友達から『まだ、被災地を撮っているのかよ』と言われて、『えへへ』と笑って返すのが僕の希望のイメージ」だと語ったように、やがては復興し忘れられる「陸前高田」の運命を否定も肯定もできないからこそ、写真家として今この風景にシャッターを切らずにはいられないのでしょう。

    ただし、畠山直哉はまったく受け身ではありません。本展タイトルはイタロ・カルヴィーノの小説『まっぷたつの子爵』からきたもの。主人公は戦争で身体を左右に裂かれ、中身も善と悪とに分断された子爵。終盤、子爵は医師に縫合され見た目は元通りになりますが、本当に元の通りなのか? と物語は問うてきます。畠山もまた、故郷の風景に再生を覚えつつ「元通り」のあるべき姿を、常に模索しているのかもしれません。35メートルのテーブルの向こうには23年前に津波被害に遭った「奥尻」の穏やかな海が鎮座していました。

    来年1月8日までの開催。今なら紅葉の季節。ひとり静かに考え事に耽れば、普段とは違った風景に出合えることでしょう。(粟生田弓)

    畠山直哉「陸前高田2011-2016 コンタクトプリント」「まっぷたつの風景」せんだいメディアテーク

    畠山直哉写真展『まっぷたつの風景』

    開催期間:~2017年1月8日(日)
    開場時間:11時から20時
    開催場所:せんだいメディアテーク 6F ギャラリー4200
    仙台市青葉区春日町2-1
    入場料:一般¥500
    休館日:11月24日および12月29日から1月3日

    https://www.smt.jp/projects/cloven_landscape/