「藝大コレクション」展のパンドラの箱が魅せる希望とは? 130年の歴史から飛び出す名品、希少品にワクワク。

  • 文:坂本 裕子

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藝大の伝統的な卒業制作である自画像のコーナーでは、現代作家の作品が並ぶ。こちらは「伝 源頼朝像」に扮した山口晃。しらじらとした表情に思わずクスリ。 山口晃 『自画像』 平成6年 (1994) 東京藝術大学蔵 通期展示

東京藝術大学創立から今年で130周年! これを記念した藝大大学美術館の一大コレクション展が2期構成で開催されています。

1887年、近代化へ向かう日本の文化を世界水準にするべく、東京美術学校として岡倉覚三(天心)を初代校長に設立された官立で唯一の美術専門学校は、戦後「東京藝術大学」へと改組、国内最高峰の美術学校のひとつとして多くのアーティストを生み出しています。現在のコレクションは、およそ2万9000件。学生たちの制作の参考とするために集められた国宝・重要文化財を含む古美術品から、戦前の近代美術の名品、学生の卒業制作や教員の作品まで、貴重な資料も含みながら、いまも成長を続けているのです。

130年間の収蔵品のお蔵出しとなる展示内容は、「名品編」「テーマ編」「アーカイブ編」の3編構成。絵画や彫刻、工芸にとどまらず、写真や現代アート、芸術家の手稿や書簡に至るまで、多様なジャンルで、その幅広さを感じさせます。「名品編」は、飛鳥時代から戦前まで、教科書でもおなじみの超有名作がずらりと並ぶ豪華空間です。国宝の『絵因果経』(第1期展示)や重文の尾形光琳作『槇楓図屏風』(第2期展示)、高橋由一の『鮭』(通期展示)、狩野芳崖の『悲母観音』(第1期展示)『観音下図』(明治21年頃・第2期展示)など、これだけでも見ごたえ充分ですが、注目は、「テーマ編」です。
なかでも、本校の教師であった彫刻家・平櫛田中のコレクション紹介と、この美術館の特色である卒業制作から、いまをときめく現代作家の若き日の自画像が展示されるコーナーがお薦めです。高村光太郎らのブロンズ彫刻の石膏原型の当館秘蔵品が一挙公開されるのも、記念展ならではのチャンス。また、「アーカイブ編」では、来年没後50年を迎える藤田嗣治の日記や手稿、彼が撮影した写真などが初公開されます。

展覧会のサブタイトルは、「パンドラの箱が開いた!」。ゼウスから「開けてはいけない」と与えられた箱を好奇心に負けて開き、人間の世界にあらゆる厄災をばらまいた美女パンドラが、ただひとつ箱に残した「希望」――。このギリシャ神話に託されたのは、学芸員も開催までどんな空間になるのか分からなかったという膨大なコレクションの掘り起こしと、次代へ向けて「藝大大学美術館」が担う役割への宣言です。これまでとこれからを見すえた、希望に満ちあふれたアート空間を味わってください。

学生の学びのために、日本・中国の名品も多く所蔵しています。琳派の祖といわれる光琳の屏風は、私淑した宗達の同構図作を再構成したものです。 尾形光琳 『槇楓図屏風』 [重要文化財] 江戸時代(18世紀) 東京藝術大学蔵 第2期展示

独学で学んだ日本における油絵の創始者の「鮭」もお目見え。匂いまで感じる迫真性はいまいちどその目で。 高橋由一 『鮭』 [重要文化財] 明治10年頃(19世紀) 東京藝術大学蔵 通期展示

最後の狩野派ともいわれる芳崖の絶作。近代日本画の出発を象徴する記念碑的作品は、これからの画壇への祈りをも感じさせます。 狩野芳崖 『悲母観音』 [重要文化財] 明治21年(1888) 東京藝術大学蔵 第1期展示

厳しい時代に女性に画家の道を切り拓いた松園は謡曲をテーマにした女性像をよく描きました。鼓の音が聞こえそうな緊張感まで表した画面はみごとです。 上村松園 『草紙洗小町』 昭和12年(1937) 東京藝術大学蔵 第2期展示

夏の爽やかな太陽と風を感じる小倉の代表作のひとつ。刈上げの少女とともに歩くことが誇らしげな犬の姿が笑みを誘います。 小倉遊亀 『径』 昭和41年 (1966) 東京藝術大学蔵 通期展示

「東京藝術大学創立130周年記念特別展 藝「大」コレクション パンドラの箱が開いた!」

開催期間:~9月10日(日)※期間中大幅な展示替えがあり。
第1期は~8月6日(日)、第2期は8月11日(金)~9月10日(日)
開催場所:東京藝術大学大学美術館
東京都台東区上野公園12-8
開館時間:10時~17時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし8月14日は開館)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般800円
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2017/collection17/