「絵巻マニア列伝」で、いにしえの愛好家の情熱とともに絵巻の醍醐味を満喫...

「絵巻マニア列伝」で、いにしえの愛好家の情熱とともに絵巻の醍醐味を満喫しよう。

文:坂本 裕子

後白河院による蓮華王院宝蔵と考えられる「病草紙」は、輪廻転生の六道絵のひとつ。腹痛や歯痛のほか、先天性疾患から居眠りや不眠(いまなら睡眠障害?)など幅広い症状が取り上げられます。こちらは深夜にひとり眠れない女のいらだちや淋しさが、健やかに眠る女房たちとの対比で表されます。 重要文化財 《病草紙断簡 不眠の女》 一幅 平安時代 12世紀 サントリー美術館 【全期間展示】

詞書と絵が合体した「絵巻」。そもそもは中国から伝来したものですが、日本で独自の流行と発展をみた芸術様式です。遺されている名品の数々も、いまでは残念ながらガラス越しに広げられたシーンだけしか楽しむことができませんが、かつては手に取り、右から左へ、少しずつ巻き取りながら読んでいました。さながらそれは、現在の漫画やアニメーションの世界。高僧のエピソードや寺の縁起を、政変や事件、軍記を、あるいは妖怪や鬼退治の活劇を、そして季節を追った年中行事の華やぎを、庶民のちょっと下世話な滑稽を、臨場感あふれる画とともに物語ります。当時一流の画師や書家により、豪華な金彩や絵具、詞書に彩られた絵巻は、手にできる階層が限定されているとはいえ、さぞかし人々を魅了したことでしょう。

それらに殊に魅せられて、集め、庇護し、作り、取り寄せたいにしえの愛好家たちに着目し、彼らの絵巻愛からさまざまなジャンルの絵巻の名品を味わう展覧会が、六本木・サントリー美術館で開催中です。その名も『絵巻マニア列伝』。“列伝”に名を連ねるのは、蓮華王院宝蔵にさまざまな宝物とともに絵巻も充実させて、その後の愛好家が憧れるコレクションをなした後白河院を皮切りに、鎌倉期に絵所預・高階隆兼を擁し、平安に次ぐ絵巻黄金期を築いた花園院、室町期に古今の絵巻を鑑賞するだけに飽き足らず、自ら写し、新たに制作もした後崇光院と後花園院父子の皇室びと。そして武家文化の台頭期からは、詞書を清書し、物語の草稿を執筆した文化人・三条西実隆、文武合体で政権安定を図り、宮廷文化の摂取と保護を進めた足利将軍家。さらに江戸時代からは、各地に残る文化財の調査や記録、保存に注力した幕府老中・松平定信。彼らの関与をしめす、これまた絵巻に劣らず貴重な鑑賞記録や由来が記された文献に合わせてたどる絵巻の世界は、まさに“マニア”熱満開です。

鮮やかな彩色、活き活きとした人々や動物、精緻な自然や建物、美しい詞書は、時に荘厳に時に華やかに、時に哀しく時に楽しく滑稽に、ストーリーと併せて時代の息吹を伝えます。いまでもわたしたちを物語の世界に引き込む絵巻たちを彼らの情熱とともに味わう空間は、作品そのものの魅力だけではない、共感できるワクワクや喜びに満ちています。やっぱり手には取れないけれど(笑)、国宝も重文も、これまでよりちょっと身近に感じられ、一味違う楽しみを得られるかも。※無断転載を禁じます

宇多法皇の臨幸に伴い公達たちが行くのは琵琶湖沿岸、遠景には比叡の山々が描かれます。1-3巻の絵は鎌倉期、花園院の時代の高階隆兼の工房作ですが、現存の七巻は江戸時代までかけて随時補完されたもの。室町後期三条西実隆の詞書の巻四や、江戸期の谷文晁による写しも観られます。 重要文化財 《石山寺縁起絵巻》 巻一(部分) 詞 杲守 筆 七巻のうち一巻 鎌倉時代 絵 鎌倉時代 正中年間(1324~26)頃 / 詞 南北朝時代 14世紀後半 滋賀・石山寺 【全期間展示】

室町時代の後崇光院・後花園院父子は、各地の重宝とされていた絵巻を取り寄せては鑑賞し、時には父子間で又貸しして愛でていたとか。興福寺大乗院に伝えらたこちらもそのひとつで、全巻を3-4日で読破したそうです。鮮やかな色彩と立体的な描写で玄奘が釈迦の足跡を追う過程が描かれます。 国宝《玄奘三蔵絵》 巻四(部分) 十二巻のうち一巻 鎌倉時代 14世紀 藤田美術館 画像提供:奈良国立博物館(撮影:佐々木香輔) 【展示期間:3/29~4/24】

皇族や公家、将軍家に由来するものが多い中で、異彩を放つのがお尻を丸出しにして「屁」を競い合う人々を描くこちら。音や匂いまでしてきそうなお下品極まりなくも楽しい作品は、仁和寺御室に伝来の写しだそうです。同じく放屁の芸で金持ちになる男を描いた《福富草紙》の後日談ともいわれ、このたびともに観られます。 《放屁合戦絵巻》 一巻(部分) 室町時代 文安6年(1449)写 サントリー美術館 【全期間展示】

室町後期、三条西実隆が詞書を清書、土佐光信の絵とされる“小絵(こえ)”とよばれる小型絵巻。千日間の写経を始めた僧が施主を申し出る美女に懸想して龍宮で過ごし、戻れば200年を過ぎ、自身は大蛇の姿となっていました。己の煩悩を懺悔、大蛇の背が割れて人間の姿に戻ったシーンです。この後修行にはげみ無事往生するまでが描かれます。 《地蔵堂草紙絵巻》一巻(部分) 室町時代 15世紀 個人蔵 【全期間展示】

足利将軍家のうち、六代義教により制作・奉納されたもので、絵巻には珍しい絹本、サイズも大きめです。飛鳥時代、欽明天皇の勅命により建立された誉田宗庿の縁起のうち、欽明天皇の行幸を迎える人々が描かれます。それぞれの身分の違いも丁寧に描き分けられ、色も鮮やかに残っています。 重要文化財 《誉田宗庿縁起絵巻》 巻中(部分) 三巻のうち一巻 室町時代 永享5年(1433) 大阪・誉田八幡宮 【全期間展示】

六本木開館10周年記念展 「絵巻マニア列伝」

~5月14日(日) ※作品保護のため会期中展示替えあり
開催場所:サントリー美術館
東京都港区赤坂9-7-4
開館時間:10時~18時(金・土および5/2~4は20時まで開館)
(入館は閉館30分前まで)
休館日:火曜(ただし5/2は開館)
TEL:03-3479-8600
入館料:¥1300

http://suntory.jp/SMA/

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