見る者の心を躍らせる、
ポートレートを描く。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    泊 貴洋・文
    text by Takahiro Tomari

    見る者の心を躍らせる、
    ポートレートを描く。

    サイトウユウスケYusuke Saitoh
    イラストレーター
    1978年、神奈川県生まれ。2003年にバンタンデザイン研究所を卒業後、フリーで活躍。おもな仕事に『ミュージックマガジン』の表紙(08年~14年)、フジテレビ木曜ドラマ『続・最後から二番目の恋』のポスターなど。ディスクユニオンやベネッセ、ENEOSでんきなど広告も多数手がける。

    『ミュージックマガジン』の表紙を6年間担当し、さまざまなミュージシャンの「顔」を描いてきたサイトウユウスケ。CDジャケットなど音楽系の仕事が目立つのは、自身もかつて、音楽を志向していたからかもしれない。
    「中学の頃からバンドを組んで、大学まで音楽漬けでした。でも3年生の時にいろいろあって諦めて……。その時、子どもの頃から好きだった絵を、ちゃんと描いてみようと思いました」

    大学を中退して専門学校に入り、出合ったのがデジタルペインティング。憧れていた寺田克也の影響もあり、マックとペンタブという「画材」を購入すると、在学中から精力的に作品を制作し、売り込みを始めた。そこで好評だったのが、ポートレートだ。
    「画力向上のために有名人の似顔絵を描いていたら、評判がよくて。いまでは8割が人物を描く仕事です。特に嬉しかったのは、『ミュージックマガジン』の表紙。『俺はあの表紙をやる』と学生時代から吹聴していたので、決まった時は、跳び上がりましたね」

    ポートレートを描く際に意識しているのは、人物の魅力的な部分を引き出すことと、写真には表現できない絵としてのクオリティを両立すること。そのために動画などで多角的にチャーミングな表情を探るなどのインプットも怠らない。さらに大切にしているのが「無心になること」だという。

    「描く前に『こうしてやろう』と思っていると、うまくいかないことが多いんです。だから30分くらい瞑想したりして、心の中を空っぽにしてから描き出すようにしています。そうすると、絵に必要なものが降りてくるというか。いつの間にか、想像以上の絵が出来上がっているんです」

    リアルテイストでありながらも、ポップアート的なデザイン性に富んだサイトウのイラストレーション。その魅力は多方面から注目され、今年はヨウジヤマモトとのコラボを展開。夏には音楽フェス『サマーソニック』でライブペインティングを行うなど、活動の幅を次々に広げている。

    「ライブペインティングなんてしたことないし、僕には向いてない。そう言って以前なら断っていた仕事かもしれません。でも最近、そんなリミッターを外して、求められるままに描いていたら、新しい仕事がどんどん舞い込むようになってきて。これからも来る者拒まず、流れ流されながら、新しい挑戦を楽しんでいきたい」

    works

    『ウルトラセブン放送開始50年展』に参加。架空の女性隊員を実相寺昭雄監督の構図を意識して描いた。

    山本耀司からのオファーで、昭和のモダンガールを描いた。「パリコレのランウェイに自分の絵が出た時は、鳥肌が立ちました」photo:showbit/amanaimages

    ※Pen本誌より転載