オリジナルの物語で、
人の心を撮りたい。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    細谷美香・文
    text by Mika Hosoya

    オリジナルの物語で、
    人の心を撮りたい。

    森ガキ侑大Yukihiro Morigaki
    映画監督
    1983年、広島県生まれ。「JRA」「ロッテ」「富士フイルム」などCMを手がける他、「かりゆし58」などのミュージックビデオの演出も。2014年に短編映画『ゼンマイシキ夫婦』でFOX短編映画祭最優秀賞受賞、小津安二郎短編映画祭準グランプリ受賞。http://morigakiyukihiro.com

    「資生堂」や「dマガジン」に「ソフトバンク」といった企業のコマーシャルを任され、若手のCM・映像ディレクターとして最も注目を集めている森ガキ侑大。華やかな場所に身を置くが、驚くほど地道な方法で人生をプランニングしてきた人でもある。

    高校までは陸上競技に全力を注いでいたが、ケガによる挫折を経験。打ち込むものを失った森ガキ少年を救ってくれたのは、レンタルビデオ店に並んでいた映画だった。

    「映画ってこんなに人の心を動かすものなんだと、初めて監督という仕事に興味をもったんです。でもそれでは食べていけないと母からは映画の専門学校や美大への進学を反対されて。地元の広島の大学に通いながら、演出するために演技を学ぶことが必要だと感じて劇団に入ったり、独学で短編やドキュメンタリーを撮り始めました」
    卒業後はCM監督から映画業界へと進む道を摸索して、福岡のCM制作会社を経て上京。映像集団「ディレクターズ・ギルド」で下働きをしながら企画を出し続け、アポなしでレコード会社を訪問してミュージックビデオを撮る機会を手にするなど「“昭和のやり方”でがむしゃらに進んできた」。最後の勝負だと挑んだ「武蔵野銀行」のCMが評価されたことが現在の成功へとつながり、ついに『おじいちゃん、死んじゃったって。』で、夢だった長編映画監督デビューを果たす。
    「こだわったのはオリジナル作でデビューすることと普遍的な題材を撮ることです。影響を受けた監督のひとりである伊丹十三の『お葬式』の現代版のようなものにチャレンジしたい、という思いもありました。生と死が交錯する土着的な田舎のお葬式をフランス映画のような映像で撮れたら、と。大好きな小津安二郎監督や、学生時代に映像美に衝撃を受けた岩井俊二監督の影響も入っているかもしれません」
    建築家の父と絵画を教えていた母のもとで育ち、幼い頃の休日は美術館めぐり。アートが身近にあった記憶の欠片も、モノづくりに活かされている。そして彼のアイデアの源にあるのは、「人の心を撮る」ことへの好奇心だ。「尺の長短にかかわらず、どうすれば感情の機微や動きを撮れるのか考えています。映画監督になるまで遠回りもしましたが、無駄なことはひとつもない。いままでの出会いや経験を活かして、CMと映画を行き来しながら活動していきたいですね」

    works

    映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』は祖父の葬式をきっかけに本音が交錯する、現代の家族を描いたドラマだ。11/4よりテアトル新宿他にて公開。©2017 『おじいちゃん、死んじゃったって。』製作委員会

    ※Pen本誌より転載