本でしかつくれない彫刻、 その面白さを探求する。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    土田貴宏・文
    text by Takahiro Tsuchida

    本でしかつくれない彫刻、 その面白さを探求する。

    飯田竜太Ryuta Iida
    アーティスト/彫刻家
    1981年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。現在、同大学専任講師。2000年代初めより彫刻家として活動する。07年、Nerholを結成して話題に。今年8/30~9/16まで東京・銀座のガーディアン・ガーデンで『本棚のアーケオプテリス』展を開催した。

    写真の束を切り刻んだ作品により、数年前からアートシーンを騒がせているふたり組、Nerhol(ネルホル)。そのひとり、飯田竜太は本を素材に使う彫刻で知られるアーティストだ。彼の作品には、本の文字をすべて切り抜いたものや、幾何学的なルールでページをカットしたものなどがある。独自の作風の基点には、彫刻を学んだ大学時代の運命的な出来事があった。

    「14日連続で毎日1点の作品をつくる課題があり、短時間に満足できるものをつくろうと選んだ素材が本でした。紙は石、金属、木のように加工に時間がかかりません。大学に大量の本が捨てられていて、それを使ったんです」と、飯田さん。

    一連の作品に取り組みながら、本でしかつくれない彫刻の面白さに目覚めたという。「最初は捨てられてしまう本が素材でしたが、やがて自分が読んだ本や好きな本を使い始めました。ある彫刻を初めて見る体験が一度しかないように、ある本を初めて読むことも一度しかできない。その本を何回も読むのではなく、僕が所有したという事実を作品として残そうと考えたんです」

    ネルホルの活動は、メンバーの田中義久との対話からコンセプトを導き、素材も新たに撮影した写真を使うことが多い。一方、個人の作品は既存の素材がアイデアを触発する。個展『本棚のアーケオプテリス』展では、本の物性に注目した新機軸の作品を発表した。アーケオプテリスとは、古生代に現れた最古の木のことだ。

    「本棚の中の本を引っくり返すと見える小口(ページの断面)は木だ、と気づいたんです。その層は年輪のようだし、素材の木は自分よりも前から生きていたに違いなく、さらに木には進化の歴史がある。本は、そんな膨大な情報のストックでもあるわけです」 

    本棚の姿の作品は、小口を表現したものがメイン。棚に収まった本は自身で選出した100冊。彼にとって大切な本や、影響を受けた人々の本を選んだ。身近なものを題材として、彼の作品は目に見えないストーリーを直感的に伝える。驚きで人々を引き込み、深遠な意味の世界をうかがわせる。「いつかこの作品を図書館全体を使ってやってみたい。どこにも文字がなく森のようになった図書館は、体験として彫刻的な感じがします」。秘められたものを可視化する彫刻の可能性を開放するために、独自の探求はいつまでも続く。

    works

    2015年発表の『Forest in the Bookshelf』は、本の小口を見せることで素材感を強調するシリーズのひとつとして制作された。

    文庫本そのものを、ビスや磁石を使って歪ませて、彫刻的なフォルムを与えたシリーズ『歪曲の参稼』。2016年発表。photo:Kei Okano

    ※Pen本誌より転載