「生」を実感するために、
野生のエネルギーを描く。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    猪飼尚司・文
    text by Hisashi Ikai

    「生」を実感するために、
    野生のエネルギーを描く。

    ミロコマチコmirokomachiko
    画家/絵本作家
    1981年、大阪府生まれ。京都精華大学を経て、アートスクール梅田の絵本コースへ。2012年に処女作『オオカミがとぶひ』で日本絵本賞大賞、15年『オレときいろ』がブラティスラヴァ世界絵本原画展で金のりんご賞を受賞。16年10月、最新作『けもののにおいがしてきたぞ』を発刊。

    豊かな色彩とダイナミックなタッチで、エネルギーに満ちあふれた動物の姿を描き出すミロコマチコ。彼女がモチーフにする動物たちは、一般的に描かれるような愛らしいものとは違い、どことなく野性味を帯びた精悍な姿をしている。

    「人間は思考する生き物。日々の生活の中で、半ばどうでもいいようなことまでも細かく意識しています。でも、自然界に生きている動物は実に明快ですよね。自然を本能で感じながらとてもシンプルに生きている。あんな風に生きてみたいと憧れを感じてしまうほど、野生動物たちの生きざまが格好よく見えるんです」 

    制作時はほかのことが一切、気にならなくなるというミロコ。絵に没頭していると、野生動物に近い感覚を自身が身につけたような感じになるという。

    「植物が少しずつ枝葉を伸ばすように、気づかぬうちに、世の中のさまざまなものが息づき、うごめいています。私も生きていることを実感したいから、自分の中にあるうごめきを求めて、絵を描いているのかもしれません」 

    作風に関しては定まった形式はなく、作品ごとに違っているという。

    「思うままに筆を走らせているので、同じ絵を描くことができないというのも理由のひとつなんですけどね(笑)」 

    制作に大きな制約がなく、自由な発想で展開できることも、ミロコが絵本を手がける理由のひとつだ。

    「絵本はお話に起承転結やオチがなくてもいいんです。小さくても大きくても一瞬でも長い年月の出来事でも絵本にできる。読む人の想像で変わってもいいし、絵本って自由度が高くて、だから魅力的なんでしょうね」 

    最新作となる絵本『けもののにおいがしてきたぞ』は、自身が登山に出かけ、緑豊かな山の空気を胸いっぱいに吸い込んだ時、突然そこに動物の匂いが混じり込んできた体験をもとに描いたという。森のどこかに潜んでいる獣の気配、見えなかったからこそ、想像が湧いたことを表現している。

    「キレイに植えられた植木よりも、道端に生える雑草のほうが自由でリアルな存在に見える。野生のものには、とんでもなく美しいエネルギーが秘められているように感じるんです」 

    これまでに自分が感じたことがないような、想像を超えた力を発揮したい。そんな純粋な創作への意欲が、新しいカンヴァスの前にミロコマチコを立たせるのかもしれない。

    works

    『 BLUE MONKEY』(2016年)。隆起した筋肉と豊かな毛並み。正面を見つめる凜とした表情も特徴的だ。

    『 けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店 ¥1,728)。本からあふれ出しそうなほど勢いのある絵と言葉が連なる。

    ※Pen本誌より転載