自分を内側から食い破り、豹変する身体表現者。

    Share:

    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    住吉智恵・文
    text by Chie Sumiyoshi

    自分を内側から食い破り、豹変する身体表現者。

    川村美紀子Mikiko Kawamura
    ダンサー/振付家
    ●1990年、東京都生まれ。16歳でダンスを始める。日本女子体育大学卒業。トヨタコレオグラフィーアワード2014 で「次代を担う振付家賞」「オーディエンス賞」、横浜ダンスコレクションEX 2015で「審査員賞」「若手振付家のための在日フランス大使館賞」をともにダブル受賞。

    「ここしばらく、ダンスの話をすると涙が止まらない。自分のやってることを問われたらまっすぐ前を向いてうんと言えるのに、言葉で説明することがこんなに難しいと感じたことはないです」と話し始めた川村美紀子は、これまで自分の世界を内側から食い破るようにして表現してきた人だ。 

    四肢に鼓動が宿るかのようなキレとしなやかさ。観る者の神経を刺激する演出の手腕。どこのストリートでもステージでも勝負できるテクニックと度胸をもちながら、あらゆる身体言語を駆使してダンスという枠組みすら跳び出そうとする、いま最も〝取り扱い注意〞のダンサー・振付家である。 
    ストリートやクラブで踊りまくる10代を経て大学在学中のデビュー以来、数々の賞を総ナメにしてきた。国内外の劇場やフェスティバルから次々に招聘。2014年には次代を担う振付家のためのふたつの賞をダブル受賞。受賞作では、彼女の内面に巣食う「猛女」のイメージが今後どう成長を遂げるのかと、空恐ろしくなった。 

    ところが今年発表した新作では〝身体性を爆発させる暴れんぼうのダンサー〞という周囲の期待を小気味よいまでに裏切ってみせた。「ヒトはどれくらい踊れるだろう?  カラっぽになるまで踊ってみたい」と宣言。ツアー最初の金沢公演で、ダンサーたちは狂った電気仕掛けのように踊り尽きた。しかし、東京公演では誰も予期しないことが起きる。闇をつんざく爆音とライティングの中、ダンサーたちは90分間ほとんど動かずに寝そべったまま。リングのような舞台を立ち見で取り囲む観客の多くは、戸惑いを押し殺したまま終演を迎えたはずだ。

    「前と同じことをする必要はないと思ったんです。私の役目は洞窟探検隊のように、まだこっちに何かあるよとダンサーたちを奥へと連れていくこと。でも誰もがみんな一人ひとり違う考え方をもっているのなら、自分たちが舞台上に存在する意味っていったい何だろうと考えてしまって」 
    身体表現に限らずアートとは、何よりもまず作家自身にこじらせた毒を吐かせ、覚醒させるためのもの。20代女子の憧れや疑い、怒りや衝動といった心理に烈しくドライブをかけ、増幅拡張してみせる川村美紀子の豹変には、いつもながらドラッグめいた癖になる魅力がある。

    works

    シアタートラム(東京)公演より、『まぼろしの夜明け』。川村の心の揺らぎが油断した観客を思考停止させ、身体を拘束した。痛快。photo:bozzo

    ふたつのコンペ受賞作『InnerMommy』。川村含む4人の女性ダンサーが、取り憑かれたように烈しく踊る。photo:bozzo

    ※Pen本誌より転載